破骨細胞と軟骨細胞の分化における骨形成型オリゴ DNA の作用
木村智勇.
信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.
Abstract
【目的】運動器の障害のために移動機能が低下した状態をロコモティブ症候群といい、原因疾患として、骨粗鬆症や変形性関節症がある。骨の恒常性は、骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞による骨吸収によって維持されており、この均衡が破綻すると骨粗鬆症を発症する。また、関節軟骨の変形は変形性関節症を引き起こす。我々は乳酸菌ゲノムに由来する18塩基の骨形成型オリゴ DNA (iSN40) が骨分化を促進し [1]、破骨分化を抑制することを報告した [2]。本研究では、骨芽細胞と破骨細胞の共培養による骨リモデリング系および軟骨分化に対する iSN40 の効果を検討した。
【方法】マウス骨芽細胞株 MC3T3-E1、マウス前破骨細胞株 RAW264.7 の共培養系に RANKL を投与し、破骨分化を誘導した。TRAP 染色および定量 PCR により、共培養系の破骨分化に対する iSN40 の効果を検討した。
マウス軟骨前駆細胞株 ATDC5 にインスリンを投与し、軟骨分化を誘導した。軟骨の細胞外マトリクスであるプロテオグリカンをアルシアンブルー、コラーゲンをシリウスレッドで染色し、軟骨分化に対する iSN40 の作用を評価した。
【結果】MC3T3-E1 と RAW264.7 の共培養系に RANKL を投与した4日後には、顕微鏡下で同視野に、骨芽細胞、前破骨細胞、破骨細胞が観察された。0.3 uM の iSN40 の投与によって、破骨細胞の形成が顕著に抑制された。また、0.3 または 1 uM の iSN40 の投与で、破骨分化マーカーである破骨細胞特異的プロテアーゼ (Ctsk) と破骨細胞融合に必須の膜タンパク質 (Dcstamp) の発現量が有意に低下した。一方、iSN40 の CG 配列を GC に置換した iSN40-GC には破骨分化抑制作用を認めなかった。
次に、ATDC5 の軟骨分化に対する iSN40 の効果を検討した。分化誘導8日目にて、インスリンで誘導されるプロテオグリカンとコラーゲンの生成は、10 uM の iSN40 の投与でさらに促進された。また、iSN40-GC にも iSN40 と同等の軟骨分化促進作用が確認された。
【考察】MC3T3-E1 と RAW264.7 の共培養系において iSN40 は破骨細胞分化を抑制することが明らかとなった。今後、共培養系における骨芽細胞への作用を検討する必要がある。また、iSN40 は ATDC5 の軟骨分化を促進することが明らかとなった。また、破骨細胞と軟骨細胞で iSN40-GC の作用が相違することから、両細胞において iSN40 は異なる機序で作用していると考えられる。今後、iSN40 の作用機序を解明することで骨粗鬆症や変形性関節症の治療薬の開発につながることが期待される。
【参考文献】
- Nihashi et al. (2022) Nanomaterials, 12, 1680
- 池田玲奈, 2021年度修士論文