抗ヌクレオリンアプタマーは脂肪前駆細胞の分化と炎症反応を抑制する

抗ヌクレオリンアプタマーは脂肪前駆細胞の分化と炎症反応を抑制する

森岡一乃1, 三谷塁一1, 梅澤公二1,2, 下里剛士1,2, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学バイオメディカル研究所.

日本核酸医薬学会第7回年会 (東京), 2022/08/02 (ポスター).

Abstract

肥大した脂肪細胞が分泌するサイトカインは、慢性炎症を惹起し、生活習慣病の発症リスクを増大させるため、脂肪の分化と炎症の制御はメタボリック症候群の予防に重要である。我々は最近、18塩基のオリゴ DNA である iSN04 が、抗ヌクレオリンアプタマーとして機能し、骨格筋の分化と炎症を制御することを報告した。骨格筋と脂肪はともに間葉系から分化するが、脂肪細胞におけるヌクレオリンの役割は不明である。本研究では、脂肪前駆細胞の分化と炎症における iSN04 の作用を検討した。

脂肪前駆細胞のモデルであるマウス胎児線維芽細胞株 3T3-L1 を用いた。免疫染色の結果、未分化な 3T3-L1 の核内に局在するヌクレオリンは、脂肪分化に伴って細胞質中に拡散することがわかった。次に、3T3-L1 に iSN04 を投与して培養し、オイルレッド O 染色で細胞内の中性脂質を、qPCR で脂肪特異的な遺伝子発現を定量して脂肪分化を評価した。分化誘導0~10日目まで継続的に iSN04 を投与すると、脂肪滴を有する成熟脂肪細胞への分化が著明に抑制され、脂肪特異的な遺伝子 (PPARγ, CEBPα, FABP4, ペリリピン) の発現も有意に減少した。さらに、分化初期の0~4日目に iSN04 を投与することで、脂肪分化が十分に抑制されることがわかった。また、3T3-L1 を TNF-α や TLR2 リガンドで刺激すると炎症性サイトカイン (TNF-α, IL-6, MCP-1) の発現量が増加するが、これらの炎症誘導は iSN04 の前投与で有意に抑制された。以上の結果から、iSN04 によるヌクレオリンの阻害は、脂肪前駆細胞の分化と炎症反応を抑制することがわかった。iSN04 は、肥満とそれに伴う慢性炎症を緩和し、生活習慣病の発症予防に有用であると期待される。