抗ヌクレオリンアプタマーによる筋芽細胞の分化誘導と炎症抑制

抗ヌクレオリンアプタマーによる筋芽細胞の分化誘導と炎症抑制

山本万智1, 三谷塁一1, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学バイオメディカル研究所.

日本核酸医薬学会第7回年会 (東京), 2022/08/01 (ポスター).

Abstract

がんや糖尿病など、全身的な慢性炎症を生じる疾患の多くが筋萎縮を合併する。筋量の減少はこれら疾患の予後と強く相関するため、筋萎縮治療薬の開発が求められている。我々は最近、乳酸菌ゲノム配列に由来するオリゴ DNA ライブラリから、抗ヌクレオリンアプタマーとして機能することで筋分化を促進する、筋形成型オリゴ DNA (iSN04) を同定した。iSN04 は、がん分泌物や糖尿病で悪化する筋分化を改善すると同時に、筋芽細胞の炎症反応を抑制する。本研究では、iSN04 の抗炎症作用機序の解明を目的とした。

マウス筋芽細胞株 C2C12 に iSN04 を3時間前処理した後、TNF-α を投与して炎症を誘導し、2時間後に炎症性サイトカインの発現を調べた。qPCR の結果、TNF-α 投与による炎症性サイトカインの発現誘導は、iSN04 の前処理で有意に抑制されることを認めた。免疫染色とルシフェラーゼアッセイの結果、iSN04 の前処理は、TNF-α 依存的な NF-κB の核内移行と転写活性を抑制することがわかった。iSN04 の標的であるヌクレオリンは、GSK-3β のリン酸化を介して β-カテニンの分解を阻害することが報告されている。また、細胞内に蓄積した β-カテニンは、NF-κB と結合して転写複合体を形成し、標的遺伝子の発現を誘導することが知られる。ウェスタンブロッティングと免疫染色の結果、iSN04 の前処理は、TNF-α 依存的な β-カテニンの細胞内蓄積と核内移行を阻害することがわかった。

本研究により、iSN04 は、ヌクレオリン阻害を介した β-カテニン/NF-κB 経路の制御によって抗炎症作用を示すことが明らかになった。iSN04 は、筋分化を改善して炎症を抑制する核酸医薬品のシーズとして期待される。