血管平滑筋の増殖・分化・石灰化における筋形成型オリゴ DNA の作用

血管平滑筋の増殖・分化・石灰化における筋形成型オリゴ DNA の作用

三好愛1, 二橋佑磨2, 梅澤公二1,2,3, 下里剛士1,2,3, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学大学院総合医理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

第21回日本抗加齢医学会 (京都), 2021/06/26 (優秀演題受賞講演).

本研究は優秀演題賞を受賞しました。

Abstract

【目的】動脈硬化は日本人の死因の上位を占める心血管疾患の危険因子である。アテローム性動脈硬化では、血管平滑筋が脱分化して過剰に増殖し、内膜肥厚と血管内腔の狭窄を惹起する。メンケベルグ型動脈硬化では血管平滑筋が石灰化するが、このプロセスでは骨分化と類似した遺伝子発現の変化が生じる。したがって、血管平滑筋細胞の増殖・分化・石灰化の制御は、動脈硬化の予防や治療において重要な課題である。我々は最近、ヌクレオリンを標的として骨格筋分化を促進する筋形成型オリゴ DNA として、18塩基の iSN04 を同定した。本研究では、血管平滑筋細胞の増殖・分化・石灰化における iSN04 の作用を検討した。

【方法】ヒト大動脈平滑筋細胞 (hAoSMC) に iSN04 を投与して48時間培養し、EdU 染色で細胞増殖を、qPCR で遺伝子発現を定量した。また、骨分化におけるヌクレオリンの役割を検討するため、マウス前駆骨芽細胞株 MC3T3-E1 におけるヌクレオリンの発現と局在を免疫染色によって確認した。次に、MC3T3-E1 に iSN04 を投与してを分化誘導し、48時間後にアルカリフォスファターゼ (ALP) 染色によって骨分化を評価した。

【結果】iSN04 を投与した hAoSMC では、EdU 陽性率が有意に減少し、平滑筋分化マーカーである α-アクチンとカルデスモンの発現量が有意に上昇したことから、iSN04 は hAoSMC の細胞分裂を抑制して分化を促進することがわかった。MC3T3-E1 では、ヌクレオリンは未分化な細胞の核小体に局在していたが、骨分化に伴って細胞質へと拡散した。MC3T3-E1 に iSN04 を投与すると、ヌクレオリンの細胞質移行が抑制され、ALP 活性が著減したことから、iSN04 は骨分化を抑制することが示唆された。

【結論】iSN04 が血管平滑筋細胞の増殖を抑制し分化を誘導することが明らかになった。さらに、iSN04 は骨分化を阻害したことから、血管平滑筋の石灰化も抑制することが期待される。iSN04 は、アテローム性動脈硬化における平滑筋の過剰増殖や、メンケベルグ型動脈硬化における平滑筋の石灰化を抑制する核酸医薬のシーズとして期待される。