血管平滑筋の分化における筋形成型オリゴ DNA の作用

血管平滑筋の分化における筋形成型オリゴ DNA の作用

三好愛1, 二橋佑磨2, 梅澤公二1,2,3, 下里剛士1,2,3, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学大学院総合医理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

第20回日本抗加齢医学会 (東京), 2020/09/26 (口演).

Abstract

【目的】動脈硬化をはじめとする血管障害は、日本人の死因の上位を占める心筋梗塞や脳梗塞の危険因子である。アテローム性動脈硬化では、粥状病変において血管平滑筋が脱分化して内膜側に遊走し、そこで過剰に増殖して内膜肥厚と血管内腔の狭窄を惹起する。一方、メンケベルグ型動脈硬化では血管平滑筋が石灰化するが、このプロセスでは、骨芽細胞の分化と類似した遺伝子発現の変化が生じる。したがって、血管平滑筋細胞の分化を制御することは、動脈硬化の予防や治療において重要な課題である。我々は最近、骨格筋や心筋の分化を促進する筋形成型オリゴ DNA として、18塩基の iSN04 を同定した。本研究では、血管平滑筋細胞の分化における iSN04 の作用を検討した。

【方法】市販のヒト大動脈平滑筋細胞 (hAoSMC) を用いた。30 uM の iSN04 を添加した培地で hAoSMC を培養し、48時間後に遺伝子発現を qPCR で定量した。また、骨分化における iSN04 の作用を検討するため、マウス前駆骨芽細胞株 MC3T3-E1 を用いた。30 uM の iSN04 を添加した培地で MC3T3-E1 を分化誘導し、48時間後にアルカリフォスファターゼ (ALP) 染色によって骨分化を評価した。

【結果】iSN04 を投与した hAoSMC では、平滑筋の分化マーカーである α-アクチン (ACTA2)、SM22-α (TAGLN)、カルデスモン (CALD1) 遺伝子の発現量が上昇しており、iSN04 が平滑筋の分化を促進することが示された。また、MC3T3-E1 では、iSN04 投与群において ALP 活性が著名に減少したことから、iSN04 は骨芽細胞の分化を抑制することが示唆された。

【結論】骨格筋や心筋の分化を促進する iSN04 は、血管平滑筋細胞の分化も誘導することが明らかになった。さらに、iSN04 は骨芽細胞の分化を阻害したことから、血管平滑筋においても石灰化を抑制することが推測される。現在、hAoSMC の石灰化における iSN04 の作用を検討中である。iSN04 は、アテローム性動脈硬化における平滑筋の過剰増殖や、メンケベルグ型動脈硬化における平滑筋の石灰化を抑制する核酸医薬品のシーズとして期待される。