筋形成型オリゴ DNA の短縮化と構造解析

筋形成型オリゴ DNA の短縮化と構造解析

池田玲奈.

信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.

Abstract

【目的】超高齢化社会では、加齢性の筋萎縮であるサルコペニアが増加している。サルコペニアによる運動機能の低下は、健康寿命を阻害する要因の一つである。筋組織の恒常性は、筋芽細胞と呼ばれる前駆細胞の増殖と分化によって保たれる。しかし、筋芽細胞の分化能は加齢とともに減弱する。

当研究室では、筋芽細胞の分化を亢進する分子をスクリーニンした結果、テロメア配列を有する18塩基のオリゴ DNA 群 (ODNs) が、極めて強力に筋分化を促進することを見出し、筋形成型オリゴ DNA (myogenetic ODNs; myoDNs) と命名した。最も活性の高い myoDN である iSN04 は、立体構造依存的に筋分化を誘導することが明らかになっている。本研究では、iSN04 と類似の構造をとると推測される、11-16 塩基のオリゴ DNA (iMyo01-08) を設計し、それらの筋分化促進作用を検討した。

【方法】初代培養したヒトの筋芽細胞を96穴プレートに播種し、最終濃度 10-30 uM の ODN を添加した培地で筋分化を誘導した。48時間後、骨格筋の最終分化マーカーであるミオシン重鎖 (MHC) の蛍光免疫染色を行い、細胞核あたりの MHC 蛍光強度を算出して筋分化の指標とした。また、筋芽細胞における ODN 依存的な遺伝子発現の変化を qPCR で定量した。さらに、iSN04 と iMyo の立体構造を分子動力学的にシミュレーション解析し、筋分化促進作用に重要な構造的特徴を比較した。

【結果】30 uM の iMyo01 (12 塩基) および iMyo03 (14 塩基) を投与したヒト筋芽細胞では、iSN04 と同様に、MHC 蛍光強度が有意に増加していた。qPCR の結果、iMyo01 および iMyo03 は、筋分化転写因子 MYOG や、筋管形成因子 MYMKMYMX の発現を誘導することがわかった。iMyo01 と iMyo03 の1分子構造をシミュレーションした結果、iMyo03 は 9-12 塩基目の GGGG が分子内で互いに近接しており、iSN04 の活性中心と類似した部分構造が見られた。しかし、iMyo01 にはこのようなGスタックを認めなかった。

【考察】iMyo01 と iMyo03 はヒト筋芽細胞の分化を促進したが、その他の iMyo 配列は筋分化に影響しなかった。iSN04 の活性中心は 13-15 塩基目のスタッキングした GGG 配列だが、iMyo03 も 9-12塩基目の GGGG がスタックしている。一方、iMyo01 の 7-10 塩基目の GGGG は1分子内でスタックしていなかった。しかしながら、iMyo01 の NMR 解析では明瞭なGスタックシグナルが検出されることから、iMyo01 は多量体化することでGスタックを形成し、筋分化促進作用を発揮することが示唆されている。

本研究により、従来 18 塩基であった myoDN を最短 12 塩基にまで短縮することに成功した。myoDN の短縮化は、合成コストの削減、摂取後の吸収や細胞内輸送の効率化など、筋萎縮の予防・治療薬としての応用展開に有用であると期待される。