大豆ペプチドが老化促進モデルマウスの骨格筋組織に及ぼす影響

大豆ペプチドが老化促進モデルマウスの骨格筋組織に及ぼす影響

山本穂高.

信州大学農学部応用生命科学科.

Abstract

【背景・目的】超高齢化社会では要介護状態になることなく自立した生活を送ることが重要である。要介護状態になる主な原因は運動器の障害 (ロコモティブ症候群) であり、特に骨格筋で加齢性の機能低下が起こっている状態をサルコペニアと言う。一般的に、老化骨格筋では筋重量の低下、筋線維数の減少、筋線維の萎縮、膠原線維の増加、速筋型筋線維の遅筋化といった組織的な変化が生じる。

SAMP8 (Senescence-Accelerated Mouse Prone 8) は促進老化を示すマウス系統の一つで、神経系において著しい老化が認められる。SAMP8 の骨格筋では収縮力と筋重量の低下が起こることが知られており、骨格筋老化のモデルとしても利用されている。これまでの研究で、大豆ペプチドを摂取した SAMP8 では認知能力の低下が抑制されることが明らかになっている。大豆ペプチドには神経保護効果など多くの抗老化作用が報告されていることから、本研究では、大豆ペプチドを経口摂取した SAMP8 の骨格筋を組織学的に解析した。

【方法】 コントロール餌を摂取させた SAMP8 を PC 群、大豆ペプチド餌を摂取させた SAMP8 を PS 群とした。対照として、通常老化を示す SAMR1 (Senescence-Accelerated Mouse Resistant 1) 系統にコントロール餌を摂取させた集団を RC 群とした。各群を 16 週齢から 44 週齢まで飼育した後、前脛骨筋を採取し、凍結組織切片を作成した。ヘマトキシリン-エオシン (HE) 染色で筋線維の形態、マッソン染色で膠原線維化、NADH-TR (NADH-Tetrazolium Reductase) 染色で速筋・遅筋型筋線維の割合、アセチルコリンエステラーゼ (AChE) 染色で筋線維あたりの神経筋接合数を定量した。

【結果・考察】前脛骨筋の重量は、RC 群に比べ PC 群で有意に小さく、RC 群と PS 群では有意差がなかった。HE 染色の結果、筋線維数と筋線維径に各群間で有意差を認めなかった。マッソン染色でも、筋組織内の膠原線維の面積は各群間で有意差がなかった。

NADH-TR 染色の結果、RC 群に比べ PC 群では、遅筋型である I 型筋線維の割合が有意に増加していた。一方、PC 群と比べ PS 群ではI型筋線維の割合が有意に減少し、RC 群と同程度であった。このことから、SAMP8 の前脛骨筋では遅筋化が進行するが、大豆ペプチドの摂取で遅筋化が抑制されることが示された。

AChE 染色の結果、RC 群に比べ PC 群では、筋線維1本あたりの神経筋接合数が有意に減少していた。だが、PC 群に比べ PS 群では神経筋接合数が有意に増加していた。以上の結果から、SAMP8 の前脛骨筋では運動神経の脱落が起こるが、大豆ペプチドの摂取により脱神経が抑制されることが示された。

以上の結果から、老化に伴う骨格筋組織の変化が、大豆ペプチドの摂取によって抑制されることが示唆された。大豆ペプチドの神経保護効果により、老化が進行しても神経筋接合が維持されることが理由の一つとして考えられる。今後、大豆ペプチドを活用したサルコペニア予防法やサプリメントの開発が期待される。