骨格筋分化を特異的に促進する新規核酸アプタマーの同定

骨格筋分化を特異的に促進する新規核酸アプタマーの同定

高谷智英1,2,3, 進士彩華2, 二橋佑磨3, 梅澤公二1,2, 下里剛士1,2,3,4.

  1. 信州大学バイオメディカル研究所.
  2. 信州大学農学部.
  3. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  4. 信州大学菌類・微生物ダイナミズム創発研究センター.

第3回国際心血管薬物療法学会日本部会学術集会 (東京), 2017/06/17 (ポスター).

本研究は研究奨励賞を受賞しました。

Abstract

超高齢社会では、心血管疾患に加え、骨格筋の機能低下を主徴とするロコモティブ症候群の増加が重大な問題となっている。慢性心不全患者は高頻度で骨格筋の委縮を併発することが知られていたが、近年、骨格筋の筋量や酸素消費量が、心不全の予後と強く相関する独立した危険因子であることがわかってきた。今後ますます増加する加齢性筋委縮の予防・治療は、健康長寿社会を創造する上で極めて重要な課題である。

骨格筋組織は、筋線維と基底膜の間に存在する幹細胞 (衛星細胞) の働きにより恒常性が保たれている。骨格筋の再生過程において、衛星細胞は前駆細胞 (筋芽細胞) へと活性化され、数回の細胞分裂を経て筋細胞へ分化する。

我々は、マウス筋芽細胞を用いたスクリーニングにより、乳酸菌 Lactobacillus rhamnosus GG のゲノム配列に由来する短鎖オリゴ DNA が強力に骨格筋分化を促進することを見出した。myoDN と名付けたこの核酸アプタマーを投与すると、筋芽細胞の増殖が抑制され、ミオシン重鎖陽性の筋細胞への分化が誘導される。myoDN はマウス線維芽細胞の増殖は抑制しないことから、myoDN は特異的に筋分化を促進することが示された。現在、myoDN を利用した ES 細胞の筋分化誘導法の開発を進めており、再生医療や創薬スクリーニングへの応用展開も試みている。

myoDN は熱変性により失活するため、その作用には立体構造が寄与していると考えられる。現在、分子シミュレーションにより、myoDN の活性中心となる配列とその分子構造を解析中である。これまでに、活性のコアと予想される配列の同定に成功し、その立体構造と筋分化作用に相関があることも明らかになってきた。骨格筋幹細胞を活性化し、筋分化を強力に誘導する myoDN は、ロコモティブ症候群に代表される加齢性筋疾患の予防・治療に有用な新規核酸分子となることが期待される。