天然物成分クルクミンによる核内アセチル化をターゲットとした新規心不全治療の可能性

天然物成分クルクミンによる核内アセチル化をターゲットとした新規心不全治療の可能性

平野早絵1, 砂川陽一1,2,3, 川村晃久2, 高谷智英2, 和田啓道2, 刀坂泰史1, 米田正始3, 島津章2, 北徹3, 藤田正俊3, 長谷川浩二2, 森本達也1.

  1. 静岡県立大学薬学部.
  2. 国立病院機構京都医療センター.
  3. 京都大学大学院医学研究科.

第122回日本薬理学会関東部会 (静岡), 2010/06/05 (ポスター).

Abstract

【背景】我々は心筋細胞肥大における遺伝子発現機構において、ヒストンアセチル化酵素 (HAT) 活性を持つ転写コアクチベーター p300 と心筋特異的転写因子 GATA4 の協力 (p300/GATA4 経路) が重要な役割を果たしていることを見出した。さらに p300 の HAT 活性が心不全の治療ターゲットとなり得ることを見出した。最近、健康食品として使用されている天然物ウコンの主成分であるクルクミンが p300 の特異的アセチル化阻害作用を持つということが明らかになり、我々は培養心筋細胞にて効果を検討したところ、クルクミンが心筋細胞肥大を抑制することを見出した。そこで本研究の目的は、高血圧性心疾患のラットモデルである食塩感受性 Dahl (DS) ラットを用いて、クルクミンが心不全の進行を抑制するかを検討することである。

【方法】6週齢の雄性 DS ラットは高食塩食を負荷すると高血圧になり、11週齢で心肥大を呈する。この11週齢の DS ラットを無作為に2群に分け、それぞれにクルクミン 50 mg/kg/day (クルクミン群)、アカシアガム (コントロール群) を7週間連日経口投与した。心不全治療効果について、投与7週間後、心臓超音波検査や組織学的検査、ウエスタンブロット法などで効果を検討した。

【結果】投与7週間後の心臓超音波検査では、心収縮力の指標である左室短縮率 (FS) がコントロール群 30.8% に対し、クルクミン群 48.6% であり、高血圧性心不全の進行に伴う心筋収縮力の低下を有意に改善した (p < 0.05)。高血圧による心筋壁の肥厚や個々の心筋細胞肥大、血管周囲の線維化をクルクミンは有意に抑制した。心不全の進行に伴って、心不全マーカーである心臓組織内の BNP の mRNA および血漿レベルが亢進するが、クルクミンはこれらを有意に抑制した。また、免疫沈降-ウエスタンブロット法にて検討したところ、心不全心筋では、p300 による GATA4 のアセチル化ならびに p300 と GATA4 の結合能の亢進が認められたが、クルクミンはこれらを抑制した。

【考察】p300 特異的 HAT 活性阻害作用を持つ天然物質クルクミンが、少なくとも部分的に、p300/GATA4 転写経路を阻害し、高血圧性心不全の進行を抑制した。安価で安全性の確認された、クルクミンが心不全治療に用いられる可能性が示された。