天然物成分クルクミンによる核内アセチル化をターゲットとした新規心不全治療の可能性

天然物成分クルクミンによる核内アセチル化をターゲットとした新規心不全治療の可能性

森本達也1, 砂川陽一1, 川村晃久1, 高谷智英1, 和田啓道1, 米田正始3, 藤田正俊4, 島津章1, 北徹2, 長谷川浩二1.

  1. 国立病院機構京都医療センター展開医療研究部.
  2. 京都大学大学院医学研究科循環器内科学.
  3. 京都大学大学院医学研究科心臓血管外科学.
  4. 京都大学大学院医学研究科人間健康科学.

第17回日本循環薬理学会 (大阪), 2007/11/30 (口演).

Abstract

【目的】我々は、心不全発症における遺伝子発現調節にヒストンアセチル化酵素 (HAT) 活性を持つ転写コアクチベーター p300 と GATA 転写因子群の協力が中心的な役割を果たしていることを見出した。さらには HAT 活性を消失した p300 の変異体を心臓に過剰発現するマウスでは、心筋梗塞後のリモデリングの進行を抑制することより、p300 の HAT 活性が心不全治療のターゲットとなる可能性を示した。最近、健康食品として使用されている天然物ウコンの主成分であるクルクミンが p300 の特異的アセチル化阻害作用を持つということが明らかになった。我々は培養心筋細胞を用いて検討したところ、クルクミンが心筋細胞肥大を抑制することを見出した。今回の研究の目的は、2つの心不全モデル (高血圧性心不全ラットおよび心筋梗塞ラット) を用いて、クルクミンによる心不全進行抑制効果の有無の検討を行うことである。

【方法】1) 高血圧性心不全ラットモデルである食塩感受性ダール (DS) ラット 11 週齢 39 匹をランダムに2群に分け、クルクミン (50 mg/kg) およびコントロールを7週間連日経口投与した。2) 心筋梗塞作成1週間後のラット 29 匹をランダムに2群に分け、クルクミン (50 mg/kg) およびコントロールを6週間連日経口投与した。生存曲線、心エコーなどによる心機能評価、組織、蛋白レベルでの評価を行った。

【結果】ダールラットにおいて、心不全期での生存率がコントロール群 44% に対して、クルクミン群 76% と有意に改善した。さらに、心エコー検査にて、心収縮力の指標である左室短縮率 (fractional shortening, FS) が、ダールラットではコントロール群 31% に対して、クルクミン投与群 49%、心筋梗塞ラットではコントロール群 15% に対して、クルクミン投与群 30% と有意にクルクミン群で高値であった。両方のモデルにおいて、クルクミンは左室の壁厚と個々の心筋細胞径の増大を抑制した。このデータに一致して、18 週齢の DS ラットでは心不全マーカーである BNP の心室での mRNA レベルおよび血漿レベルが上昇しているが、それらはクルクミンによって有意に抑制された。さらに、18 週齢の DS ラットでは GATA-4 のアセチル化や GATA-4 と p300 の結合も亢進したが、これらはクルクミンにて抑制された。

【考察】天然成分クルクミンが、少なくとも部分的に、p300/GATA-4 転写経路を阻害し、心不全の進行を抑制した。この安価で安全性が確認された生薬が心不全治療に用いられることが期待される。