Ca2+ あるいはトロポニン I との結合不良トロポニン C を形質転換した線虫の表現型解析

Ca2+ あるいはトロポニン I との結合不良トロポニン C を形質転換した線虫の表現型解析

高谷智英1, 寺見浩美2, 板東哲哉2, 香川弘昭1,2.

  1. 岡山大学理学部生物学科.
  2. 岡山大学大学院自然科学研究科.

Phenotype analysis of transformed Caenorhabditis elegans having Ca2+ or troponin I binding defect-mutant troponin C

Tomohide Takaya1, Hiromi Terami2, Tetsuya Bando2, Hiroaki Kagawa1,2.

  1. Department of Biology, Faculty of Science, Okayama University, Okayama, Japan.
  2. Graduate School of Science and Technology, Okayama University, Okayama, Japan.

第25回日本分子生物学会 (横浜), 2002/12/14 (ポスター).

Abstract

トロポニン複合体は、トロポニン C (TnC)、トロポニン I (TnI)、トロポニン T (TnT) が1分子ずつ結合して構成される。TnC に Ca2+ が結合すると TnC の立体構造が変化し、TnI・TnT との相互作用で、アクチン-ミオシン間の滑りが起こる。線虫の TnC は4つの EF-hand のうち、site II と IV に Ca2+ が結合する (Ueda et al., 2001)。線虫体壁筋に特異的な TnC-1 遺伝子 pat-10 の変異体 st568 株は、胚発生の 2-fold 期で体壁筋の形成が止まって胚致死に至る、Pat という表現型を示す。st568pat-10 は2つの塩基置換 G1860A、G2179A をもち、それぞれ TnC-1 に m1; D64N、m2; W153stop のアミノ酸置換を引き起こす。TnC-1-m1 は site II の Ca2+ 結合能を失い、TnC-1-m2 は C 末端の H 経リックスの欠失により、site IV の Ca2+ 結合能と TnI との結合能を失う (Terami et al., 1999)。

pat-10 変異体では2つの塩基置換によって TnC-1 の機能がなくなっているが、どちらの変異が個体レベルの Pat 表現型の原因かを決定するため、以下の実験を行った。TnC-1-m1、TnC-1-m2 のゲノム DNA を組み込んだベクターを、pat-10 変異体をヘテロにもつ個体の卵巣に顕微注入し、形質転換させた子孫の表現型の分離比を測定した。TnC-1-m1 を発現する子孫は Pat 表現型を回復して野生型を示した。これは野生型 TnC のゲノム DNA でレスキューした場合と同様の結果である。一方、TnC-1-m2 を発現する子孫は Pat 表現型であった。この結果から、st569 株の pat-10 の2つの変異のうち、Pat の原因は m2; W153stop であり、m1; D64N は筋形成に関与してないことが判明した。現在、TnC-1-m2 に付随する site IV の Ca2+ 結合能のみ、および、TnI との結合能のみが欠如すると予想されるアミノ酸置換をもつ TnC を作成し、タンパク質レベルでの機能変異と、筋形成や Pat という個体レベルの表現型の関連性を解析しているので報告する。