筋形成型オリゴ DNA の抗炎症作用機序

筋形成型オリゴ DNA の抗炎症作用機序

山本万智.

信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.

Abstract

【目的】がんや糖尿病では、TLR に認識されるダメージ関連分子パターン (DAMPs) や、TNF-α などの炎症性サイトカインの増加によって、全身的な慢性炎症が生じる。これらの疾患の多くは筋萎縮を合併し、筋量の減少は死亡率と強く相関するため、疾患治療において筋萎縮の改善は重要である。筋前駆細胞である筋芽細胞で炎症が生じると、筋分化が減弱し、これが筋萎縮の一因であると考えられている。18塩基の筋形成型オリゴ DNA (iSN04) は、抗ヌクレオリンアプタマー (核酸抗体) として機能し、がん分泌物や糖尿病で悪化する筋芽細胞の分化を回復する (1,2)。興味深いことに、iSN04 は同時に筋芽細胞の炎症反応も抑制することがわかっている。そこで本研究では、iSN04 の抗炎症作用機序を調べた。

【方法・結果】マウス筋芽細胞株 C2C12 に iSN04 を3時間前処理した後、TLR2 リガンド (Pam3CSK4, FSL-1) または TNF-α を投与して炎症応答を誘導し、2時間後に qPCR で炎症性サイトカインの発現を定量した。その結果、リガンド投与によるインターロイキン6および TNF-α の発現誘導は、iSN04 の前処理で有意に抑制された。免疫染色の結果、リガンド投与30分以内に生じる炎症性転写因子 NF-κB の核内移行は、iSN04 の前処理で阻害されることがわかった。ルシフェラーゼアッセイでも同様に、リガンド依存的な NF-κB の転写活性が iSN04 の前処理で有意に抑制された。以上の結果から、iSN04 は、炎症性刺激による NF-κB の核内移行を阻害し、下流の炎症性サイトカインの発現を抑制することで抗炎症作用を発揮することがわかった。β-カテニンは、NF-κB の核内移行を調節するシグナルの一つである。ヌクレオリンは、GSK-3β のリン酸化を介して β-カテニンの分解を抑制することから (3)、iSN04 は、標的であるヌクレオリンを阻害することで β-カテニンの分解を促進することが推測された。ウエスタンブロッティングの結果、TNF-α 刺激で増加する β-カテニンのタンパク質量は、iSN04 の前処理で減少することが示された。これらのことから、iSN04 は β-カテニンの分解を促進して NF-κB の核内移行を阻害し、炎症性サイトカインの発現を抑制することが明らかになった。

【考察】本研究により、iSN04 の抗炎症メカニズムが明らかになった。iSN04 はヌクレオリン阻害を介した β-カテニン経路を抑制することで、炎症反応を沈静化した。炎症は筋分化を抑制することから、iSN04 の筋分化促進作用の一部は抗炎症作用に依拠していると考えられる。iSN04 は、炎症を沈静化し、筋萎縮を予防する核酸分子として、がんや糖尿病のような筋萎縮を伴う疾患に対する新たな医薬品シーズとなることが期待される。

【参考文献】

  1. Shinji S et al., Front. Cell Dev. Biol., 2021; 8: 616706.
  2. Nakamura S et al., Front Physiol. 2021; 12: 679152.
  3. Reister S et al., Leukemia. 2019; 33: 1052.