横紋筋肉腫における筋形成型オリゴ DNA の作用
野平直樹.
信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.
Abstract
【目的】骨格筋を発生母地とする横紋筋肉腫は、小児で最も頻度が高い軟部悪性腫瘍である。確立した治療法はなく、高リスク患者には超大量化学療法が用いられるが、予後生存率は約 30% であり、革新的な治療薬が希求されている。横紋筋肉腫は、骨格筋の発生の全段階で生じ得ることが知られている。したがって、横紋筋肉腫細胞の筋分化を誘導することで、腫瘍増殖が抑制できるのではないかと期待される。我々は最近、乳酸菌ゲノムに由来する18塩基の筋形成型オリゴ DNA (iSN04) が、骨格筋分化を促進することを報告した。そこで本研究では、iSN04 が横紋筋肉腫の筋分化を誘導し、細胞増殖を抑制するかを検討した。
【方法】ヒト横紋筋肉腫細胞株の RD, ERMS1, KYM1 を用いた。免疫染色によって iSN04 の標的であるヌクレオリンの細胞内局在を確認した。iSN04 を 10 uM 投与し、EdU 染色と細胞数計測によって細胞増殖への影響を評価し、qPCR で遺伝子発現を定量した。また、3次元培養で RD の腫瘍塊を形成させ、iSN04 が腫瘍塊の増殖に及ぼす影響を検討した。
【結果】免疫染色の結果、いずれの細胞株においてもヌクレオリンは核内、特に核小体に局在していることが確認された。iSN04 投与によって、EdU 陽性細胞率は RD で48時間後、ERMS1 と KYM1 で24時間後に有意に減少し、細胞数は RD で96時間後、ERMS1 と KYM1 で72時間後に有意に減少した。qPCR の結果、iSN04 投与による遺伝子発現の変動は細胞株によって差異があることがわかった。RD ではPAX3, PAX7, MKI67 の有意な減少と、MYH3, CDKN1C の有意な増加を認めた。ERMS1 では MKI67 の有意な減少と CDKN1C の有意な増加、KYM1 では MYOG と CDKN1C の有意な増加が見られた。RD の3次元培養では、iSN04 投与群で腫瘍塊の増殖低下や崩壊が観察された。
【考察】iSN04 は全ての横紋筋肉腫細胞株の増殖を抑制した。一方、iSN04 による遺伝子発現の変化は細胞株によって異なり、ERMS1 では筋分化の誘導を認めなかった。今後、iSN04 の作用機序を解析することで、横紋筋肉腫の治療薬の開発につながることが期待される。
【参考文献】
Shinji et al., Front. Cell Dev. Biol., 2021; 8: 616706.