脂肪細胞分化における筋形成型オリゴ DNA の作用

脂肪細胞分化における筋形成型オリゴ DNA の作用

森岡一乃1, 三谷塁一1, 梅澤公二1,2, 下里剛士1,2, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学バイオメディカル研究所.

第20回日本抗加齢医学会 (東京), 2020/09/25 (口演).

Abstract

【目的】肥満は、糖尿病、高血圧、動脈硬化、心臓病などの危険因子であり、健康寿命を阻害する要因である。肥満は、脂肪前駆細胞から分化した脂肪細胞が、過剰な脂質を貯留し肥大することで生じる。脂肪細胞が分泌するアディポカインは、生活習慣病の発症リスクに影響する。したがって、脂肪前駆細胞の分化制御は、肥満を抑制し、メタボリックシンドロームへの進展を防ぐために重要である。脂肪前駆細胞は、筋芽細胞と同じく、間葉系幹細胞から分化する。このとき、脂肪前駆細胞と筋芽細胞は排他的に分化するため、筋分化の誘導は脂肪分化を抑制することが知られている。我々は最近、筋芽細胞の分化を促進する筋形成型オリゴ DNA として、18塩基の iSN04 を同定した。本研究では、脂肪分化における iSN04 の作用を検討した。

【方法】脂肪前駆細胞のモデルであるマウス胎児線維芽細胞株 3T3-L1 を用いた。30 uM の iSN04 を添加した分化培地で 3T3-L1 を10日間培養した後、細胞内の脂肪滴をオイルレッドOで染色して脂肪分化を評価した。また、iSN04 投与による遺伝子発現の変化を、qPCR で経時的に定量した。さらに、iSN04 の投与時期および投与期間を変えることで、iSN04 が脂肪分化に影響するステージを検討した。

【結果】分化誘導0日目から継続的に iSN04 を投与した群では、10日目において、脂肪滴を有する脂肪細胞の割合が顕著に減少した。また、iSN04 投与群では、脂肪細胞の分化マーカーである PPARγ、FABP4、Perilipin の遺伝子発現が低下していた。iSN04 投与の時期と期間を検討した結果、分化誘導0〜4日目に iSN04 を投与することで脂肪分化を抑制できることが明らかになった。以上の結果から、iSN04 は脂肪分化の初期段階に作用することで、脂肪滴を有する脂肪細胞への成熟を阻害することが示唆された。

【結論】筋分化を促進する iSN04 は、3T3-L1 細胞において脂肪分化を抑制することが示された。今後、脂肪細胞分化における iSN04 の作用機序を明らかにすることで、抗肥満作用を示す核酸素材の開発につながることが期待される。