構造計算に基づいた筋形成型オリゴ DNA の短縮化

構造計算に基づいた筋形成型オリゴ DNA の短縮化

池田玲奈1, 梅澤公二2, 二橋佑磨3, 進士彩華4, 下里剛士2, 鏡味裕1, 高谷智英1.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学バイオメディカル研究所.
  3. 信州大学大学院総合医理工学研究科.
  4. 信州大学大学院総合理工学研究科.

日本農芸化学会2020年度大会 (福岡), 2020/03/26 (口演).

Abstract

【背景】超高齢化社会では、加齢性の筋萎縮であるサルコペニアが増加している。サルコペニアによる運動能力の低下は、健康寿命を阻害する要因の一つである。筋組織の恒常性は、筋芽細胞と呼ばれる前駆細胞の増殖と分化によって保たれる。しかし、筋芽細胞の分化能は加齢とともに減弱する。我々は、筋芽細胞の分化を亢進する分子をスクリーニングした結果、テロメア配列を有する18塩基のオリゴ DNA 群 (ODNs) が、極めて強力に筋分化を促進することを見出し、myoDNs (myogenetic ODNs) と命名した。最も活性の高い myoDN である iSN04 は、立体構造依存的に筋分化を誘導することが明らかになっている。本研究では、iSN04 と類似の構造をとると推測される、11-16 塩基のオリゴ DNA (iMyo01-08) を設計し、それらの筋分化促進作用を検討した。

【方法】初代培養したヒト、マウス、およびニワトリの筋芽細胞を 96 穴プレートに播種し、最終濃度 10-30 uM の ODN を添加した培地で筋分化を誘導した。48 時間後、骨格筋の最終分化マーカーであるミオシン重鎖 (MHC) で蛍光免疫染色し、細胞あたりの MHC の蛍光強度を算出した。また、iMyo の立体構造を分子動力学的にシミュレーション解析した。

【結果】iMyo01 と 03 は、ヒト筋芽細胞の分化を有意に促進した。また、iMyo03 と 04 はマウス筋芽細胞の、iMyo01-04 はニワトリ筋芽細胞の分化を有意に増進した。いずれの筋芽細胞においても、iMyo05-08 は筋分化を促進しなかった。iMyo03 の立体構造をシミュレーションした結果、9-12 塩基目の GGGG が分子内で互いに近接していることがわかり、活性との関連性が示唆された。

【考察】iSN04 と iMyo03 は全ての筋芽細胞の分化を促進したが、iMyo01, 02, 04 の作用は動物種によって異なった。iMyo01-04 は、iSN04 の活性部位に相当する箇所に GGGG 配列を有する。一方、活性を示さなかった iMyo05-08 の当該配列は GGG である。すなわち、iMyo の GGGG 配列が寄与する構造が、筋分化促進作用に必須であると考えられた。iMyo01, 03, 04, 07 の立体構造を計算した結果、iMyo03 と 04 では配列後半の GGGG がスタックしていることがわかった。しかし、iMyo07 の GGG 配列はスタックしていなかった。iMyo03 と 04 は、iSN04 の活性部位と同様の局所構造を有するため、筋分化促進作用を示したと考えられる。今後、分子構造をさらに詳細に比較することで、筋形成型オリゴ DNA の活性に重要な構造的特徴を特定できると期待される。本研究により、従来 18 塩基であった myoDN を最短 12 塩基まで短縮することに成功した。myoDN の短縮化は、合成コストの削減、摂取後の吸収や細胞内輸送の効率化など、筋萎縮の予防・治療薬としての応用展開に有用であると期待される。

【Keywords】myoblast, oligodeoxynucleotide, myogenic differentiation