筋形成型オリゴ DNA 依存的な遺伝子発現変動の網羅的解析

筋形成型オリゴ DNA 依存的な遺伝子発現変動の網羅的解析

進士彩華1, 二橋佑磨2, 梅澤公二1,2,3, 下里剛士1,2,3, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学大学院総合医理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

第21回応用薬理シンポジウム (静岡), 2019/09/20 (ポスター).

Abstract

【背景】我々は最近、骨格筋分化を誘導する筋形成型オリゴ DNA として、テロメア配列を有する18塩基の iSN04 を同定した。iSN04 は立体構造依存的に活性を発揮することから、細胞内で標的タンパク質に結合することで筋分化を誘導すると考えられる。しかしながら、iSN04 の筋分化誘導作用の機序にはいまだ不明な点が多い。そこで本研究では、iSN04 を投与したヒト筋芽細胞における遺伝子発現を網羅的に解析した。

【方法】純水または 30 uM の iSN04 を24時間投与したヒト筋芽細胞から RNA を抽出し、RNA-seq によって各サンプルにおける 60,448 種の RNA 産物を定量した (各群 n = 3、計6サンプル)。FPKM により正規化したデータから、iSN04 の投与により発現量が 1.5 倍以上 (p < 0.05) 変動する 899 遺伝子を抽出し、オントロジー解析により機能と相互作用を分析した。

【結果】iSN04 依存的に発現が低下する遺伝子群には、細胞周期に関連する複数のクラスタが含まれていた。一方、iSN04 依存的に発現が誘導される遺伝子群からは、筋線維タンパク質など、筋分化に関わる機能的クラスタが検出された。また、褐色脂肪細胞分化や TGF-β シグナルに関与する因子群も iSN04 によって誘導されることがわかった。iSN04 は、これらのシグナル経路に作用し、細胞増殖を抑制して筋分化を促進する可能性が示唆された。

【考察】iSN04 を投与したヒト筋芽細胞における遺伝子発現の網羅的な解析により、iSN04 は、細胞増殖と筋分化に寄与する遺伝子群の発現を広範囲に変動させることがわかった。iSN04 は、細胞の運命を決定する筋分化プログラムの最上流に作用していると考えられる。今後、iSN04 の作用機序を解明することで、筋萎縮症 (サルコペニア) の予防・治療などの臨床応用へとつながることが期待される。