筋形成型オリゴ DNA はがん分泌因子による筋分化阻害を回復する

筋形成型オリゴ DNA はがん分泌因子による筋分化阻害を回復する

二橋佑磨1, 進士彩華2, 下里剛士1,2,3, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学大学院総合医理工学研究科.
  2. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

第21回応用薬理シンポジウム (静岡), 2019/09/20 (ポスター).

本研究は優秀ポスター発表賞を受賞しました。

Abstract

【背景】がん悪液質 (カヘキシー) による筋量の減少は、生命予後と強く相関する。がん細胞の馴化培地 (conditioned medium; CM) は筋前駆細胞 (筋芽細胞) の分化を抑制することから、がん分泌因子による筋分化の悪化がカヘキシーの一因であると推察される。がん分泌因子による筋分化阻害を改善できれば、がん患者の筋量減少の抑制、ひいては生存率の向上につながると考えられる。我々は最近、筋芽細胞の分化を著明に亢進する筋形成型オリゴDNA (iSN04) を同定した。そこで本研究では、がん CM に曝露したヒト筋芽細胞における iSN04 の作用を検討した。

【方法】大腸がん細胞株 Caco2 および LoVo、対照として大腸線維芽細胞株 CCD18 を48時間培養し、CM を回収した。ヒト筋芽細胞を、30% の CM を含有する増殖培地で48時間培養後、30 uM の iSN04 を添加した分化培地で48時間分化誘導した。筋芽細胞の分化は、ミオシン重鎖 (MHC) の免疫染色により評価した。

【結果】CCD18 の CM は筋芽細胞の分化に影響しなかった。一方、Caco2 または LoVo の CM に曝露した筋芽細胞では、分化誘導後の MHC 陽性率および筋管形成率が著明に低下したことから、大腸がん分泌因子は筋芽細胞の分化を抑制することがわかった。さらに、iSN04 投与群では、がん CM に曝露した筋芽細胞のMHC陽性率や筋管形成率が対照群と同程度まで改善された。以上の結果から、iSN04 は、がん分泌因子による筋形成の阻害を回復し得ることが示された。

【考察】がん CM は、筋芽細胞における炎症性サイトカイン IL-1β や TNF-α の発現を誘導する。iSN04 は筋分化プログラムを活性化することで、過剰な炎症性サイトカインによる筋分化阻害を回復させると考えられる。iSN04 は、カヘキシーによる筋委縮を抑制する新たな核酸医薬のシーズとして期待される。