大腸がん分泌因子で抑制される筋分化に対する筋形成型オリゴ DNA の作用

大腸がん分泌因子で抑制される筋分化に対する筋形成型オリゴ DNA の作用

二橋佑磨1, 進士彩華2, 下里剛士1,2,3, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学大学院総合医理工学研究科.
  2. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

第19回日本抗加齢医学会 (横浜), 2019/06/15 (口演).

Abstract

【目的】がん悪液質は、進行がん患者に見られる低栄養状態で、生命予後や QOL に多大な影響を与える。悪液質では骨格筋量の減少を含む複合的な代謝異常を認めるが、そのメカニズムは不明な点が多く、従来の治療法では改善が難しい。骨格筋組織の恒常性は、筋前駆細胞である筋芽細胞の増殖と分化によって保たれる。これまでに、前立腺がん細胞の馴化培地 (conditioned medium; CM) で筋芽細胞を培養すると、筋分化が著しく悪化することが報告されている。がん分泌因子により悪化した筋芽細胞の分化を改善できれば、筋量の減少の抑制につながると考えられる。我々は最近、筋芽細胞の分化を著名に亢進する筋形成型オリゴ DNA、myoDN を同定した。本研究では、myoDN が、大腸がん CM に曝露した筋芽細胞の分化を回復するかを検討した。

【方法】ヒト大腸線維芽細胞株 CCD18 および大腸がん細胞株 (Caco2, DLD1, HCT116, LoVo) を48時間培養し、CM を回収した。各 CM を 3, 10, 30 または 50% 添加した分化培地を用い、ヒト筋芽細胞の分化を誘導した。分化誘導48時間後に骨格筋の最終分化マーカーであるミオシン重鎖 (MHC) の免疫染色を行い、筋分化を評価した。

【結果】CCD18-CM は筋芽細胞の分化に影響しなかったが、LoVo- または HCT116-CM を 50% 添加して分化誘導すると、MHC 陽性細胞率および筋管形成率が著名に低下した。Caco2-, DLD1-, HCT116-, LoVo-CM を 3-30% 添加して同様の実験を行った結果、いずれの CM も濃度依存的に筋分化を抑制した。これらの結果から、大腸がん分泌因子は筋芽細胞の分化を抑制することが示された。次に、大腸がん CM 存在下でも myoDN が筋芽細胞の分化を促進するかを検討した。分化培地に大腸がん CM と myoDN を同時に添加すると、大腸がん CM 依存的に抑制される筋分化が myoDN によって改善され得ることを認めた。以上のことから、myoDN の筋分化促進作用は、がん悪液質で進行する筋委縮の抑制に有用である可能性が示唆された。