ニワトリ骨格筋芽細胞における ERVK の転写と近傍遺伝子群

ニワトリ骨格筋芽細胞における ERVK の転写と近傍遺伝子群

高谷智英1,2, 二橋佑磨2, 小野珠乙1,2, 鏡味裕1,2.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学大学院総合理工学研究科.

日本家禽学会2019年度春季大会 (相模原), 2019/03/30 (口演).

Abstract

【目的】食肉たる骨格筋は、筋芽細胞の増殖と分化により形成される。卵用鶏と比較して、肉用鶏の筋芽細胞は活発に増殖し、速やかに筋細胞へと分化する。我々は最近、卵用鶏と肉用鶏の筋芽細胞における遺伝子発現を RNA-seq で網羅的に定量した。その結果、一部の ERVK (endogenous retrovirus group K member) の転写が、卵用鶏と肉用鶏の筋芽細胞で異なることを見出した。ゲノムに挿入された ERVK 等の転写は、近傍遺伝子の発現に影響を及ぼすことが知られている。本研究では、ニワトリ ERVK 近傍遺伝子群を探索し、その発現を解析した。

【方法】卵用鶏および肉用鶏の10日胚から採取した筋芽細胞を初代培養し、分化誘導0、1、2日目に RNA-seq に供した。転写を認めた ERVK について、データベース上のゲノム情報 (Gallus_gallus-5.0) を用い、ERVK の近傍 100 kb 以内に存在する遺伝子を抽出した。

【結果】RNA-seq の結果、卵用鶏または肉用鶏の筋芽細胞において43個の ERVK の転写が検出された。その内16個は卵用鶏で、2個は肉用鶏で有意に発現量が高かった。ERVK の近傍 100 kb 以内に存在する、延べ182個の転写産物を抽出した。その内 39.6% が ERVK の近傍 10 kb 以内に存在していた。同定された158個のユニーク転写産物の内、114個 (72.2%) がタンパク質をコードし、19個のウイルス由来遺伝子、22個のオルファクトリー受容体遺伝子、45個の未同定遺伝子を含んでいた。一方、44個 (27.8%) はタンパク質をコードせず、5個のマイクロ RNA、38個の LincRNA を含んでいた。

【まとめ】ニワトリ筋芽細胞で転写を認めた ERVK の近傍遺伝子群は、筋芽細胞において何らかの役割を担っている可能性が考えられる。実際に近傍遺伝子群は、ANO2ORC1PODN など平滑筋での働きが明らかにされているものを含んでいた。今後、マイクロ RNA や LincRNA の解析から、品種間で異なる筋芽細胞の性質における ERVK の意義を明らかにしていきたい。