筋形成型オリゴ DNA はマウス多能性幹細胞の心筋分化を誘導する

筋形成型オリゴ DNA はマウス多能性幹細胞の心筋分化を誘導する

石岡美奈1, 二橋佑磨2, 鏡味裕1,2, 下里剛士3, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  3. 信州大学菌類・微生物ダイナミズム創発研究センター.

日本農芸化学会2019年度大会 (東京), 2019/03/27 (口演).

Abstract

【背景・目的】我々は最近、筋芽細胞の分化を著名に誘導する筋形成型オリゴ DNA として iSN04 を見出した。筋芽細胞は骨格筋への分化が決定しており、iSN04 はその筋分化プログラムを亢進すると考えられている。しかし iSN04 が、ES 細胞や iPS 細胞など多能性幹細胞の運命決定に及ぼす影響は不明である。本研究では、iSN04 がマウス多能性幹細胞の筋分化を促進するかを検証した。

【方法】未分化のマウス iPS 細胞株 20D17 (Nanog-GFP)、あるいはマウス ES 細胞株 hCGp7 (Nkx2-5-GFP) を、ゼラチンコートした 3 cm ディッシュに 3×104個播種し、分化培地で培養し、多能性幹細胞の自発的な細胞分化を誘導した。分化誘導5日目から 10 uM の iSN04 を投与した。また、未分化のマウス ES 細胞をゼラチンコートした96穴プレートに各ウェル 2,000 個播種して同様に分化を誘導し、分化誘導3日目から 10 uM の iSN04 を投与した。いずれの実験でも2日ごとに培地を交換した。これらの細胞を顕微鏡下で継時的に観察し、定量 PCR による遺伝子発現解析を行った。

【結果・考察】3 cm ディッシュで分化誘導5日目から iSN04 を投与した 20D17 細胞では、分化誘導9日目から自律的に拍動する心筋様のコロニーが見られた。対照群では、拍動コロニーの出現が iSN04 投与群に比べて1日以上遅く、コロニーの直径も最大で 300 um 程度であり、iSN04 群で観察された直径 1 mm 以上のコロニーと比較して顕著に小さかった。hCGp7 細胞による心筋特異的遺伝子 Nkx2-5 の発現観察では、iSN04 投与群で分化誘導8日目に Nkx2-5-GFP の蛍光を認め、拍動コロニーが分化した心筋細胞で形成されていることが明らかになった。定量 PCR の結果、iSN04 投与群では対照群と比較し、心筋特異的転写因子である Nkx2-5Tbx5、および心筋型ミオシン重鎖 Myh6 の発現が上昇していた。

同様に、96穴プレートで分化誘導5日目から iSN04 を投与した hCGp7 細胞では、分化誘導8日目に拍動コロニーが観察された。分化誘導4日目から iSN04 を投与した群では、さらに早く7日目から拍動を認めたが、分化誘導3日目から iSN04 を投与した群では拍動コロニーは全く出現しなかった。

以上の結果から、筋芽細胞の骨格筋分化を促進する iSN04 は、マウス多能性幹細胞においては心筋分化を誘導することが明らかになった。また、iSN04 の投与時期、すなわち多能性幹細胞の分化段階によって、iSN04 の心筋分化誘導効果は逆転することが示された。

Keywords: myocardial differentiation, oligodeoxynucleotide, pluripotent stem cell.