骨格筋分化を誘導する新規オリゴ DNA の同定と機能解析

骨格筋分化を誘導する新規オリゴ DNA の同定と機能解析

高谷智英1,2, 進士彩華2, 梅澤公二1,2, 下里剛士3.

  1. 信州大学大学バイオメディカル研究所.
  2. 信州大学農学部.
  3. 信州大学菌類・微生物ダイナミズム創発研究センター.

第18回日本抗加齢医学会 (大阪), 2018/05/25 (優秀演題受賞講演).

本研究は最優秀演題賞を受賞しました。

Abstract

超高齢化社会では、加齢性の筋委縮 (サルコペニア) を伴うロコモティブ症候群が急増している。筋組織の恒常性は、骨格筋幹細胞である衛星細胞 (サテライト細胞) が活性化した、筋芽細胞と呼ばれる前駆細胞の増殖と分化によって保たれる。しかし一般的に、加齢によって筋芽細胞の分化能は減弱する。そこで我々は、多彩な生理作用を示すオリゴ DNA (ODN) に着目し、筋芽細胞の分化を促進する塩基配列のスクリーニングを行った。

マウス筋組織から初代培養した筋芽細胞に、乳酸菌 Lactobacillus rhamnosus GG のゲノム配列に由来する ODN を投与し、48時間後に骨格筋の最終分化マーカーであるミオシン重鎖 (MHC) の免疫染色を行った。その結果、MHC 陽性筋細胞の割合を著しく増加させる新規 ODN を見出し、myoDN (myogenic ODN) と命名した。

myoDN は熱変性で失活することから、その活性は立体構造に依存すると考えられた。マルチカノニカル分子動力学法によるシミュレーションの結果、myoDN はグアニン (G) のスタッキングを有する特徴的な構造を取ることが示された。G スタッキングを欠失した変異 myoDN は筋分化を促進しなかったことから、これらの配列を中心とした立体構造が myoDN の活性に不可欠であることが強く示唆された。現在、myoDN の標的タンパク質を探索中である。

我々はさらに、生薬由来のアルカロイドであるベルベリンが、myoDN と結合することを明らかにした。ベルベリン単体を筋芽細胞に投与しても MHC 陽性細胞の割合は増加しなかったが、ベルベリンと myoDN の両方を投与した群では、myoDN 単体投与群より有意にMHC陽性細胞の割合が増加した。このことから、ベルベリンは myoDN と結合してその立体構造を変化させる、もしくは安定化させることによって、myoDN の筋分化促進作用を増進したと考えられる。

myoDN とベルベリンの複合体は、筋芽細胞の分化を促進する全く新しい機能性分子として、ロコモティブ症候群の予防に有用であることが期待される。