横紋筋肉腫に対する植物性生薬分子の作用

横紋筋肉腫に対する植物性生薬分子の作用

高谷智英1,2,3, 進士彩華1, 二橋佑磨2, 梅澤公二1,3.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

北信越畜産学会第66回大会 (伊那), 2017/09/08 (口演).

Abstract

落葉高木キハダの樹皮を乾燥させたものはオウバクと呼ばれ、消炎や解熱の作用を示す生薬として用いられる。オウバクの主成分であるベルベリンは、ベンジルイソキノリンアルカロイドの一種であり、塩化ベルベリン製剤は、整腸用の市販薬にも用いられている。また、ベルベリンは抗腫瘍作用を示すことも知られており、肝臓癌、結腸癌、胆管癌、舌癌細胞の増殖を抑制することが報告されている。しかし、肉腫である横紋筋肉腫 (rhabdomyosarcoma; RMS) に対するベルベリンの作用は不明である。

RMS は骨格筋を発生母地とする腫瘍である。ヒトでは、小児で最も発生頻度の高い軟部悪性腫瘍として知られているが、高リスク患者の生存率は~30% に留まっている。RMS はまた、ホルスタインなどの家畜や、愛玩動物でも発症することが報告されている。しかし、いずれの動物においても標準的な治療法は確立されていない。

本研究では、RMS 細胞に対するベルベリン、およびその類縁体であるパルマチンの作用を検討した。ヒト RMS 細胞株、ERMS1, RD, KYM1 にベルベリン 10 uM を投与して培養し、24時間ごとに細胞数を計測した。その結果、いずれの RMS 株においても、48-96時間後にベルベリンによる顕著な細胞増殖抑制が認められた。また qPCR により、ベルベリン投与群では細胞分裂マーカーである MKI67 の発現量が減少することを認めた。一方、パルマチンの効 果はベルベリンに比べて弱く、特にKYM1には全く効果が見られなかった。

ベルベリンおよびパルマチンによる細胞増殖の抑制は、正常なマウス線維芽細胞では認められなかった、もしくは軽微であったことから、ベルベリンは腫瘍細胞特異的にその増殖を抑制することが示された。以上の結果から、植物性生薬の成分であるベルベリンは、抗 RMS 作用を有する安全・安価な分子として、RMS の治療に有用であることが示唆された。