心不全における左室 LOX-1 の発現量と可溶型 LOX-1 の血中濃度は心機能を反映する

心不全における左室 LOX-1 の発現量と可溶型 LOX-1 の血中濃度は心機能を反映する

高谷智英1, 和田啓道2, 藤田佳子1, 森本達也3, 長谷川浩二2, 沢村達也1.

  1. 国立循環器病研究センター研究所血管生理学部.
  2. 国立病院機構京都医療センター展開医療研究部.
  3. 静岡県立大学薬学部薬学科.

第15回日本心血管内分泌代謝学会学術総会 (大阪), 2011/11/26 (口演).

Abstract

心筋 LOX-1 の発現は、酸化ストレスやホルモン性の刺激によって亢進し、アポトーシスを誘導する。我々は、高血圧心不全モデルとして食塩感受性高血圧 Dahl (DS) ラット、対照群に食塩抵抗性 Dahl (DR) ラットを用い、慢性心不全における LOX-1 の役割を調べた。DS ラットの左室 LOX-1 mRNA 量は DR ラットに比べ、左室肥大を伴う 11 週齢で 4.7 倍に、収縮能の低下を伴う 18 週齢で 32 倍に上昇していた。また、ウェスタンブロットおよび免疫染色により、18 週齢の DS ラットの左室血管壁および心筋細胞において、LOX-1 の著名な発現亢進を認めた。左室 LOX-1 の mRNA 量は、血圧、左室重量、左室壁厚、左室収縮径と有意な相関を示した。特に、心不全の指標である左室駆出率 (r = -0.77)、BNP の血中濃度 (r = 0.74) および mRNA 量 (r = 0.81) や、炎症性サイトカインである MCP-1 (r = 0.94)、IL-1β (r = 0.76) および TGF-β1 (r = 0.94) の mRNA 量と強い相関を示し (p < 0.0001)、また、マクロファージマーカーである F4/80 の mRNA とも有意な相関を示した (r = 0.56, p = 0.002)。以上の結果から、心不全の進展における LOX-1 の発現亢進がマクロファージの浸潤を誘導し、サイトカインの発現を介して、炎症や細胞死に関与している可能性が示唆された。

LOX-1 の細胞外ドメインは、可溶型 sLOX-1 として血中に放出される。sLOX-1 の心不全バイオマーカーとしての有用性を検討するため、左室肥大を伴う慢性心不全患者の sLOX-1 量を測定した。左室肥大がなく収縮能が正常な被験者を対照とした。対照群と比べて心不全患者群では、左室拡張径および左室重量係数が有意に大きく、左室駆出率が有意に低下していた。ELISA 測定の結果、心不全患者群の血中 sLOX-1 濃度は対照群と比べて有意に増加していた (948 vs 435 pg/mL, p = 0.021)。sLOX-1 と LOX-1 リガンドによって算出される LOX index は、冠動脈疾患や虚血性脳卒中のマーカーとして機能するが、慢性心不全においても有用性を示すことが期待される。