高血圧性心不全モデルラットにおける左室 LOX-1 の発現量は心機能と相関する

高血圧性心不全モデルラットにおける左室 LOX-1 の発現量は心機能と相関する

高谷智英1, 和田啓道2, 藤田佳子1, 森本達也3, 長谷川浩二2, 沢村達也1.

  1. 国立循環器病研究センター研究所血管生理学部.
  2. 国立病院機構京都医療センター展開医療研究部.
  3. 静岡県立大学薬学部薬学科.

第47回高血圧関連疾患モデル学会学術集会 (札幌), 2011/09/07 (口演).

Abstract

【目的】心筋細胞における酸化 LDL 受容体 LOX-1 の発現は、酸化ストレスやホルモン性の刺激によって亢進し、アポトーシスを誘導する。本研究では、食塩感受性高血圧 Dahl (DS) ラットを用い、慢性心不全における LOX-1 の発現量と心機能の指標との相関を解析した。また、可溶型 sLOX-1 の心不全バイオマーカーとしての有用性を、ヒト血清を用いて検討した。

【方法・結果】DS ラットの左室 LOX-1 mRNA 量は、対照群の食塩抵抗性 Dahl (DR) ラットに比べ、左室肥大を伴う 11 週齢で 4.7 倍に、収縮能の低下を伴う 18 週齢で 32 倍に上昇した。ウェスタンブロットおよび免疫染色により、18 週齢 DS ラットの左室血管壁および心筋細胞における LOX-1 の著名な発現亢進を認めた。左室 LOX-1 mRNA 量は、血圧、左室重量、左室壁厚、左室収縮終期径と有意な相関を示した。特に、心不全の指標である左室駆出率 (r = -0.772)、BNP の血中濃度 (r = 0.744) および mRNA 量 (r = 0.814)、炎症性サイトカインである MCP-1 (r = 0.943)、IL-1β (r = 0.760) および TGF-β1 (r = 0.936) の mRNA 量と強い相関を示した (p < 0.0001)。また、マクロファージマーカーである F4/80 の mRNA 量とも有意な相関を示した (r = 0.560, p = 0.0019)。LOX-1 の細胞外ドメインは、可溶型 sLOX-1 として血中に放出される。左室肥大を伴う慢性心不全患者群、および、左室肥大がなく収縮能が正常な対照群の血清中の sLOX-1 を ELISA によって定量した。測定の結果、心不全患者群の血中 sLOX-1 濃度は対照群と比べて有意に増加していた (948±208 vs 435±57 pg/mL, p = 0.021)。血中 sLOX-1 濃度は左室駆出率と有意な負の相関を示した (r = -0.495, p = 0.037)。

【考察】DS ラットの結果から、心不全の進展における LOX-1 の発現亢進がマクロファージの浸潤を誘導し、サイトカインの発現を介した炎症や細胞死に関わっていることが考えられた。またヒト血清の結果から、sLOX-1 の血中濃度は心不全患者の心機能を反映することが示唆された。sLOX-1 と LOX-1 リガンド量によって算出される LOX index は、冠動脈疾患や虚血性脳卒中の指標として機能するが、慢性心不全においても同様の有用性を示すことが期待される。