心筋細胞肥大における p300/GATA4 複合体と Cdk9 キナーゼ活性の役割

心筋細胞肥大における p300/GATA4 複合体と Cdk9 キナーゼ活性の役割

砂川陽一1,2,3, 森本達也2, 高谷智英1,3, 和田啓道3, 島津章3, 藤田正俊1, 北徹1, 長谷川浩二3.

  1. 京都大学大学院医学研究科.
  2. 静岡県立大学薬学部.
  3. 国立病院機構京都医療センター.

第131回日本薬学会年会 (静岡), 2011/03/30 (中止).

Abstract

【目的】ヒストントランスフェラーゼ (HAT) 活性を持つ p300 が、心筋特異的転写因子 GATA4 を活性化し、心筋細胞肥大を進行させる。我々は、この p300/GATA4 経路の詳細な制御メカニズムを解明するために、GATA4 の結合蛋白を精製し、プロテオミクス解析したところ、転写伸長反応を促進させる P-TEFb (Positive Transcription Elongation Factor b)の構成蛋白である Cdk9 を同定した。そこで本研究の目的は、Cdk9 が p300/GATA4 と機能的コンプレックスを形成し、心筋細胞肥大に関与するかどうかを検討することである。

【方法と結果】GST pull-down アッセイにより、Cdk9 の N 末は GATA4 の N 側 Zinc Finger ドメインと、p300 の CH3 ドメインと、それぞれ結合することを見出した。培養心筋細胞を用いて ChIP アッセイを行ったところ、フェニレフリン刺激により、Cdk9 の ANF プロモーター上への結合が亢進した。ChIP-reChIP アッセイや IP-Western blod 法にて、Cdk9 は ANF プロモーター上で p300/GATA4 と複合体を形成していることが示された。フェニレフリン刺激により、GATA のアセチル化や肥大反応遺伝子 ANF、ET-1 の転写活性が亢進するだけでなく、p300 のリン酸化を誘導した。また、Cdk9 のキナーゼ阻害剤である DRB はこれらを抑制したことから、p300 の HAT 活性には Cdk9 のキナーゼ活性が必要であることが示された。さらに、DRB や Cdk9 のノックダウンにより、フェニレフリン刺激による心筋細胞肥大は抑制された。

【考察】以上より、Cdk9 は p300 をリン酸化することにより HAT 活性を制御し、心筋細胞肥大に関与することが示された。Cdk9/p300/GATA4 機能的コンプレックスが心不全治療のターゲットとなる可能性が示された。