ES 細胞の心筋分化における microRNA-1/GATA4/Cdk9 の役割

ES 細胞の心筋分化における microRNA-1/GATA4/Cdk9 の役割

高谷智英1, 鶏内伸二2, 尾野亘1, 森本達也3, 木村剛1, 長谷川浩二4.

  1. 京都大学大学院医学研究科循環器内科学.
  2. 京都大学大学院医学研究科発達小児科学.
  3. 静岡県立大学薬学部薬学科.
  4. 国立病院機構京都医療センター展開医療研究部.

第7回宮崎サイエンスキャンプ (宮崎), 2011/02/25 (ポスター).

Abstract

タンパク質をコードしない短い RNA である microRNA (miRNA) は、標的遺伝子の mRNA と相補的に結合することによってその翻訳を阻害する。最近我々は、心筋および骨格筋で特異的に発現し、心臓発生や心筋細胞肥大などで重要な役割を果たす miRNA-1 および miRNA-133 が、マウス ES 細胞の自発的な心筋分化を抑制することを報告した。miRNA-1 または miRNA-133 を過剰発現する ES 細胞を分化させると、心筋特異的マーカーである Nkx2.5 および ANF の mRNA 発現量が対照群に比べて減少していた。既に心筋細胞において、miRNA-1 の標的遺伝子がサイクリン依存性キナーゼ (Cdk9) であることが報告されている。我々は、Cdk9 の 3' UTR を挿入したルシフェラーゼ cDNA 由来の酵素活性を測定することで、マウス ES 細胞においても、miRNA-1 が Cdk9 の 3' UTR を標的とすることを明らかにした。また、miRNA-1 を過剰発現する ES 細胞では核内の Cdk9 タンパク質の量が低下することを認めた。心筋細胞において、Cdk9 は転写因子 GATA4 および転写調節因子 p300 と複合体を形成し、心筋遺伝子の発現を亢進する。今回我々は、マウス ES 細胞において Cdk9 が GATA4 と結合することを免疫沈降法によって確認した。また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるトリコスタチン A によって促進される ES 細胞の心筋分化が、リン酸化酵素活性を失った Cdk9 優性変異体、あるいはリン酸化酵素活性阻害剤である DRB を投与することによって抑制されることを見出した。以上から、マウス ES 細胞の分化において、p300/GATA4/Cdk9 複合体は Cdk9 のリン酸化酵素活性を介して心筋遺伝子の発現を促進すること、また、miRNA-1 は Cdk9 の翻訳抑制を通じて ES 細胞の心筋分化を抑制することが示唆された。