Cdk9 阻害薬 DRB は p300/GATA4 経路を阻害し心筋肥大を抑制する

Cdk9 阻害薬 DRB は p300/GATA4 経路を阻害し心筋肥大を抑制する

渡邉雄一1, 砂川陽一1,2,3, 高谷智英2,3, 川村晃久2, 和田啓道2, 刀坂泰史1, 藤田正俊3, 北徹3, 長谷川浩二2, 森本達也1.

  1. 静岡県立大学薬学部.
  2. 国立病院機構京都医療センター.
  3. 京都大学大学院医学研究科.

第122回日本薬理学会関東部会 (静岡), 2010/06/05 (ポスター).

Abstract

【目的】我々は、心筋細胞肥大や心不全の進行に心筋特異的転写因子 GATA4 とヒストンアセチルトランスフェラーゼ (HAT) 活性を持つ p300 が重要な役割を果たすことを見出した。p300/GATA4 経路の詳細な制御メカニズムを解明するため、TAP (tandem affinity purification) 法にて GATA4 結合蛋白を精製し、プロテオミクスにて網羅的に解析し、73個の新規結合蛋白を同定した。GATA4 コンプレックスの中には、転写伸長反応を促進させる P-TEFb (positive transcription elongation factor b) の構成蛋白である Cdk9 が含まれていた。そこで、本研究では、p300/GATA4 活性化による心筋細胞肥大に対する Cdk9 阻害の影響を検討することを目的とする。

【方法】COS 細胞に p300、GATA4 とともに Cdk9 を共発現させ、肥大反応遺伝子の転写活性に与える影響を観察した。また、Cdk9 のキナーゼ活性を喪失させたドミナント・ネガティブ体 Cdk9 (dnCdk9) を発現させ、転写活性に与える影響を観察した。フェニレフリンによる肥大を誘導する培養心筋細胞の系を用いて Cdk9 キナーゼ阻害薬である DRB (5,6-dichloro-1-β-ribofuranosylbenzimidazole) 投与や Cdk9 の shRNA をレンチウイルスで発現させ、肥大反応遺伝子の転写活性や免疫組織学検討を行った。

【結果】dnCdk9 は、RNA ポリメラーゼ II のリン酸化だけでなく、p300 のリン酸化と GATA4 のアセチル化を抑制した。また、dnCdk9 は p300 と GATA4 による肥大反応遺伝子の転写活性を抑制した。培養心筋細胞において、フェニレフリンは GATA4 のアセチル化や Cdk9 との結合、心筋肥大反応遺伝子 ANF や ET-1 等の転写活性化を亢進させ、心筋細胞面積を増加させた。DRB はフェニレフリンによるこれらの効果を抑制した。Cdk9 の shRNA も、フェニレフリンによる心筋細胞面積の増加を抑制した。

【考察】以上より、Cdk9 は p300 をリン酸化することによりその HAT 活性を活性化し、心筋肥大反応遺伝子の転写活性化を亢進させた。DRB を用いた心不全予防の可能性が示唆された。