トロポニン I 結合能が異なるトロポニン C を持つ形質転換線虫の表現型解析
高谷智英1, 寺見浩美1, 香川弘昭1,2.
- 岡山大学大学院自然科学研究科.
- 岡山大学理学部生物学科.
Mutant analysis of troponin C having abnormal troponin I binding in Caenorhabditis elegans
Tomohide Takaya1, Hiromi Terami1, Hiroaki Kagawa1,2.
- Graduate School of Science and Technology, Okayama University, Okayama, Japan.
- Department of Biology, Faculty of Science, Okayama University, Okayama, Japan.
第26回日本分子生物学会 (神戸), 2003/12/12 (ポスター).
Abstract
線虫 Caenorhabditis elegans の体壁筋トロポニン C (TnC-1) の突然変異体 pat-10(st575) は胚性致死 Pat を示す。この変異体では、TnC-1 にアミノ酸置換 D64N (m1) と C 末端 H ヘリックスの欠失 W153 stop (m2) が生じ、m1 によりサイト II の Ca2+ 結合能が、m2 によりサイト IV の Ca2+ 結合能と TnI 結合能が失われる。TnC-1 のゲノム DNA を用いた形質転換線虫の解析から、Pat の原因は m2 であることがわかった。
サイト IV における Ca2+ 結合と TnI 結合の分子機構を調べるため、サイト IV、H ヘリックスにアミノ酸置換または欠失を持つ複数の変異 TnC-1 を作製した。これらの TnC-1 にトロポニン I (TnI) をオーバーレイし、Ca2+ の有無による TnI 結合能の変化を Western 解析により調べた。野生型 TnC-1 は Ca2+ の有無に関わらず TnI と結合したのに対し、H ヘリックスのアミノ酸が置換または欠失した TnC-1 は、Ca2+ が存在しなくなると TnI 結合能が失われた。特に、サイト IV - H ヘリックス間のフェニルアラニン、トリプトファンをプロリンに置換すると、Ca2+ が存在しても TnI と結合しなかった。また、サイト IV の Ca2+ 結合部位を置換した TnC-1 はどちらの条件でも TnI と結合した。以上の実験結果から、TnC-TnI 複合体形成は TnC-1 への Ca2+ 結合により促進されるが、サイト IV の Ca2+ 結合は TnI 結合には必須でないことが示唆された。
続いて、3種類の変異 TnC-1: (1) サイト IV の Ca2+ 結合部位を置換、(2) TnI 結合能の欠失、(3) Ca2+ の有無で TnI 結合能が変化、のゲノムベクターを作製して線虫に微注入し、形質転換個体の表現型を観察している。これらの実験により、TnC-1 の分子レベルでの性質と個体レベルでの役割を関連づけたい。