線虫の人為変異トロポニン C を用いた Ca2+ 依存性トロポニン I 結合能の解析

線虫の人為変異トロポニン C を用いた Ca2+ 依存性トロポニン I 結合能の解析

高谷智英1, 寺見浩美1, 香川弘昭1,2.

  1. 岡山大学大学院自然科学研究科.
  2. 岡山大学理学部生物学科.

Analysis of the Ca2+-dependent troponin I binding to the mutagenized troponin C of Caenorhabditis elegans

Tomohide Takaya1, Hiromi Terami1, Hiroaki Kagawa1,2.

  1. Graduate School of Science and Technology, Okayama University, Okayama, Japan.
  2. Department of Biology, Faculty of Science, Okayama University, Okayama, Japan.

第41回日本生物物理学会 (新潟), 2003/09/24 (ポスター).

Abstract

線虫 Caenorhabditis elegans の体壁筋トロポニン C (TnC-1) の突然変異 pat-10(st575) 株は胚性致死 Pat となる。この変異体では TnC-1 にアミノ酸置換 D64N (m1) と C 末端 H ヘリックスの欠失 W153stop (m2) が生じている。TnC-1 は EF-hand のサイト II、IV に Ca2+ が結合するが、m1 によりサイト II の Ca2+ 結合能が、m2 によりサイト IV の Ca2+ 結合能と TnI 結合能が失われる (Terami et al. 1999Ueda et al. 2001)。TnC-1 ゲノム DNA を用いた pat-10(st575) 変異体の機能回復実験から、Pat の原因が m2 であることがわかった。

サイト IV の Ca2+ 結合不良と TnI 結合不良の分子機構を調べるため、サイト IV、H ヘリックスにアミノ酸置換及び欠失を持つ12種類の人為変異 TnC-1 を作製した。これらに TnI をオーバーレイし、Ca2+ の有無による TnI 結合能の変化を抗 TnI 抗体を用いて Western 解析した。H ヘリックスに変異を持つ TnC-1 は、5 mM EGTA を加えると TnI 結合能が完全に消失した。特に F152、W153 を置換したものは、Ca2+ の有無に関わらず TnI と結合しなかった。しかし、サイト IV の Ca2+ 結合部位を置換した TnC-1 は TnI と結合した。以上の実験から、TnC-TnI 複合体の形成には H ヘリックスの特定の構造が必須であり、TnC-1 への Ca2+ 結合により促進されるが、サイト IV への Ca2+ 結合能は重要ではないことが示された。

これらの人為変異 TnC-1 を持つ形質転換線虫を作製すれば、TnC-TnI の分子間相互作用が個体の表現型にどのように影響するかを明らかにできるだろう。