体壁筋特異的に発現する線虫トロポニン C の変異解析

体壁筋特異的に発現する線虫トロポニン C の変異解析

高谷智英1, 寺見浩美2, 板東哲哉2, 香川弘昭1,2.

  1. 岡山大学理学部生物学科.
  2. 岡山大学大学院自然科学研究科.

Mutant analysis of the body wall troponin C of Caenorhabditis elegans

Tomohide Takaya1, Hiromi Terami2, Tetsuya Bando2, Hiroaki Kagawa1,2.

  1. Department of Biology, Faculty of Science, Okayama University, Okayama, Japan.
  2. Graduate School of Science and Technology, Okayama University, Okayama, Japan.

第40回日本生物物理学会 (名古屋), 2002/11/02 (口演).

Abstract

線虫 Caenorhabditis elegans の筋肉は体壁筋と咽頭筋の2種類に大別される。体壁筋は脊椎動物の骨格筋に、咽頭筋は心筋に類似している。体壁筋の収縮制御に関与するタンパク質であるトロポニン C (TnC) の遺伝子は pat-10 にコードされる。TnC は Ca2+ 結合ドメインである EF-hand を4つ持つが、実際に Ca2+ が結合するのは site II と IV のみであり、また、C 末端の α ヘリックス (H ヘリックス) は、TnC と複合体を形成するトロポニン I (TnI) との結合部位と考えられている。pat-10 変異株 st568 は胚発生の 2-fold 期で体壁筋の伸長が止まり胚致死に至る Pat 表現型を示す。st568 株の pat-10 での2つの塩基置換 G1860A、G2179A は、それぞれ TnC に D64N、W153* のアミノ酸置換を引き起こす。アミノ酸置換 D64N は site II の Ca2+ 結合能欠如を起こし、W153* は site IV の Ca2+ 結合能欠如と H ヘリックス欠失による TnI との結合能欠如を引き起こす (Terami et al., 1999)。アミノ酸置換 D64N のみを持つ変異 TnC (TnC-1-m1)、W153* のみを持つ変異 TnC (TnC-1-m2) の発現ベクターを pat-10 変異体に顕微注入すると、TnC-1-m1 を発現する子孫は野生型の表現型を示すが、TnC-1-m2 を発現する子孫は Pat 表現型を回復しないことから、Pat 表現型の原因はアミノ酸置換 W153* であることがわかった。現在、Pat 表現型の原因を調べるため、site IV の Ca2+ 結合能のみ、及び TnI との結合能のみ欠如した変異 TnC を作成し、これらの変異 TnC によって pat-10 変異体の Pat 表現型が快復されるかどうかを研究中である。