筋形成型オリゴ DNA の横紋筋肉腫治療に対する応用研究
斎藤欣洋.
信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.
Abstract
【目的】横紋筋肉腫 (RMS) は骨格筋を発生母地とする小児で最も頻度の高い軟部悪性腫瘍であり、革新的な治療薬が希求されている。RMS には、最も一般的な亜型である胎児型 (ERMS) と、悪性度の高い胞巣型 (ARMS) の二種が存在し、いずれも筋芽細胞の腫瘍化により発症する。当研究室は筋芽細胞の分化を促進するオリゴ DNA (iSN04) が[1]、ERMS 細胞の腫瘍化を抑制することを報告した[2,3]。本研究では、iSN04 の臨床応用を見据え、以下の3点について検証を行った。
- iSN04 の ARMS に対する抗腫瘍効果
- iSN04 の 抗 ERMS 作用の詳細なメカニズム
- iSN04 と RMS 標準治療薬 (ビンクリスチン; VCR) との併用効果
【方法】
- ヒト患者由来 ARMS 細胞株 RH30 に iSN04 を投与し、細胞増殖への影響を評価した。また、ヌードマウスの体幹皮下に RH30 を移植し、iSN04 の皮下投与による抗腫瘍効果を検討した。
- ヒト患者由来 ERMS 細胞株 RD に iSN04 を投与して増殖を抑制した。RNA シークエンスおよび GO 解析を行い、iSN04 依存的な遺伝子発現の変動を網羅的に解析した。
- RD と RH30 に iSN04 および VCR を投与し、細胞増殖への影響を評価した。定量 PCR で iSN04 による筋分化促進作用が VCR との併用によって増強されるかを検討した。
【結果】
- 単層培養および3次元培養した RH30 に iSN04 を投与した結果、いずれの条件においても腫瘍成長が有意に抑制された。一方、ARMS 動物モデルに iSN04 を投与した実験では抗腫瘍効果が認められなかった。
- RD における RNA シークエンスおよび GO 解析の結果、筋分化と免疫に関連する遺伝子群の発現が iSN04 投与で有意に上昇していた。先行研究で得られた RD 腫瘍組織切片[3]を F4/80 で免疫染色してマクロファージの浸潤を評価した結果、iSN04 投与群で F4/80 陽性細胞の割合が顕著に増加していた。
- RD と RH30 に iSN04 および VCR を投与したところ、両細胞株で単剤投与群と比較して、併用投与群で有意な細胞数の減少が認められた。定量 PCR の結果、RD では併用投与群で筋分化を促進する遺伝子の発現上昇が見られた。一方、RH30 では併用投与群で筋分化促進遺伝子の発現上昇は確認されなかった。
【考察】iSN04 はヒト患者由来 RMS 細胞株に対し、筋分化促進による増殖抑制を通じて抗腫瘍効果を発揮することが示された。また、iSN04 は、腫瘍免疫環境の変化に寄与している可能性が示唆された。さらに、iSN04 と RMS の標準治療薬である VCR との併用は、単剤よりも強力に細胞増殖を抑制した。筋分化促進に着目した iSN04 による抗 RMS 療法は有効な治療戦略となる可能性がある。一方で、iSN04 の薬理効果は ERMS と ARMS で異なる結果も得られた。今後、iSN04 を臨床応用するためには、ERMS と ARMS に作用する機序の違いを究明していく必要がある。
【参考文献】
- Shinji S, Front. Cell Dev. Biol. (2021) 8: 616706.
- Nohira N, Biomolecules. (2022) 10: 2691.
- 山本万智. 修士論文. (2024).

