脂質ナノ粒子化した筋形成型オリゴ DNA の作用

脂質ナノ粒子化した筋形成型オリゴ DNA の作用

仲こゆき.

信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.

Abstract

【目的】当研究室で同定された18塩基の筋形成型オリゴ DNA である iSN04 は、核タンパク質ヌクレオリンに結合するアプタマー (核酸抗体) として働く。iSN04 は、骨格筋前駆細胞[1]、心筋前駆細胞、増殖型血管平滑筋[2]の分化を促進し、脂肪前駆細胞と骨前駆細胞[3]の分化および横紋筋肉腫の増殖を抑制する。また、iSN04 は、Toll 様受容体 (TLR) 依存的な NF-κB の核内移行を阻害して炎症反応を抑制することから[4]、核酸医薬品への応用が期待される。iSN04 の実用化における課題は有効濃度の高さであり、薬剤の送達効率を向上させるドラッグデリバリーシステム (DDS) の確立が求められる。本研究では、iSN04 の DDS として脂質ナノ粒子 (LNP) を採用し、ネイキッドな iSN04 と比較して有効濃度を低減できるかを検証した。

【方法】コミナティ組成の脂質 (カチオン脂質 46.3%、PEG 脂質 1.6%、中性リン脂質 9.4%、コレステロール 42.7%。各脂質はそれぞれ、RNA との結合、血中安定性、構造安定性、膜流動性調整などの機能を担う )と iSN04 をバッチタンク内で攪拌し、脂質ナノ粒子化した iSN04 (LNP-iSN04) を作製した。

【結果】マウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞株 MC3T3-E1 に 100 ng/ml の骨形成タンパク質 2 (BMP2) と 500 nM または 10 uM の iSN04、500 nM 相当の iSN04 を含む LNP-iSN04 を投与し、分化誘導48時間後にアルカリフォスファターゼ (ALP) 活性を指標に骨分化を評価した。対照群と比べて BMP2 投与群では ALP 活性が有意に上昇したが、10 uM の iSN04 と 500 nM の LNP-iSN04 で同程度に低下した。500 nM の iSN04 と比較して、500 nM の LNP-iSN04 で ALP 活性は有意に低下した。このことから、LNP-iSN04 は BMP2 依存的な骨分化を抑制することが示された。

500 nM または 10 uM の iSN04、500 nM の LNP-iSN04 を3時間前処理したマウス筋芽細胞株 C2C12 に、TLR1/2 のリガンド (Pam3CSK4) を投与して炎症反応を誘導し、30分後に炎症性転写因子である NF-κB を免疫染色した。Pam3CSK4 依存的な NF-κB の核内移行は、10 uM の iSN04 と 500 nM の LNP-iSN04 の前処理によって同程度に阻害された。また、炎症誘導2時間後に RNA を回収し、炎症性サイトカインの発現を qPCR で定量した。Pam3CSK4 投与群では、インターロイキン 6 (Il6) および TNF-α (>Tnf) の発現が有意に増加した。これらの発現は、iSN04 および LNP-iSN04 の前処理によって有意に抑制された。以上の結果から、LNP-iSN04 は TLR 依存的な炎症反応を抑制することが示された。

【考察】500 nM の LNP-iSN04 は、BMP2 依存的な骨芽細胞の分化と、Pam3CSK4 依存的な筋芽細胞の炎症を抑制し、LNP によって iSN04 の有効濃度を 1/20 に低減できることがわかった。しかし、筋芽細胞の分化や血管平滑筋細胞の炎症への作用を検証した実験では、ネイキッドな iSN04 と同等の効果は得られず、LNP-iSN04 の効果は細胞種や処理時間、反応経路によって異なることもわかった。今後、細胞種ごとに最適な送達系を探索することで、LNP-iSN04 のさらなる有効濃度の低減と適用範囲の拡大を目指していく。

【参考文献】

  1. Shinji et al., Front. Cell Dev. Biol. 2021; 8: 616706.
  2. Miyoshi et al., Biomolecules. 2024; 14: 709.
  3. 松島もも. 専攻研究論文. 2025.
  4. Yamamoto et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 2023; 664: 1-8.