筋形成型オリゴ DNA は筋芽細胞の NF-κB 依存的な炎症反応を抑制する

筋形成型オリゴ DNA は筋芽細胞の NF-κB 依存的な炎症反応を抑制する

山本万智1, 三谷塁一1, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学大学農学部.
  2. 信州大学バイオメディカル研究所.

日本農芸化学会中部支部第190回支部例会 (名古屋), 2021/09/18 (口演).

Abstract

【目的】がんや糖尿病など、全身的な慢性炎症が生じる疾患の多くが筋萎縮を合併する。筋量の減少はこれら疾患の生存率と相関しているため、筋萎縮治療薬の開発が求められている。我々は最近、乳酸菌ゲノムに由来する18塩基の筋形成型オリゴ DNA (iSN04) が、がん分泌物や糖尿病で悪化する筋芽細胞の分化を回復することを報告した。興味深いことに、iSN04 は同時に筋芽細胞の炎症反応も抑制することが示されたが、そのメカニズムは不明である。本研究では、in vitro の炎症誘導系を構築し、iSN04 の抗炎症作用機序を調べた。

【方法・結果】マウス筋芽細胞株 C2C12 に TLR2 リガンド (Pam3CSK4, FSL-1) または TNF-α を投与し、2時間後に qPCR で炎症性サイトカインの発現を定量した。いずれのリガンド投与群でも、インターロイキン6 (IL-6) および TNF-α の発現量が上昇していた。一方、これらの発現誘導は iSN04 の前処理 (10 uM, 3時間)で有意に抑制された。IL-6 や TNF-α は、転写因子 NF-κB の核内移行によって発現する。免疫染色の結果、NF-κB は Pam3CSK4 または TNF-α の投与30分以内に核内へ移行するが、このリガンド依存的な NF-κB の核内移行は、iSN04 の前処理で阻害されることがわかった。ルシフェラーゼアッセイでも同様に、リガンド依存的な NF-κB の転写活性が、iSN04 前処理で有意に抑制されることを認めた。以上の結果から、iSN04 は、TLR2 リガンドや TNF-α 刺激による NF-κB の核内移行を阻害し、下流の炎症性サイトカインの発現を抑制することで抗炎症作用を発揮することが明らかになった。

炎症反応は筋分化を抑制することがよく知られている。iSN04 が筋分化を回復するメカニズムの一部は、抗炎症作用に依拠していると考えられる。iSN04 は、炎症を沈静化し、筋萎縮を防ぐオリゴ DNA として、新たな医薬品のシーズとなることが期待される。