骨格筋分化を促進するオリゴ DNA の発見と応用展開

骨格筋分化を促進するオリゴ DNA の発見と応用展開

高谷智英.

信州大学大学院総合理工学研究科農学専攻先端生命科学分野.

平成30年度第2回先端生命科学分野ランチセミナー (伊那), 2018/06/06 (セミナー).

Abstract

超高齢化社会を迎えた先進諸国では、加齢による筋量・筋力の減弱を主徴とするロコモティブ症候群の発症が増加している。骨格筋の恒常性は、骨格筋幹細胞が活性化した筋芽細胞の増殖と分化によって維持されるが、加齢とともに筋芽細胞の分化能は衰えていく。演者は、筋芽細胞の分化を促進する分子を同定できれば、筋機能の維持、ロコモティブ症候群の予防、ひいては健康長寿社会の実現に貢献できると考え、着任後に本研究を開始した。

初代培養したマウス筋芽細胞の分化を自動的に定量する系を確立した後、ランチセミナーが契機となり、下里剛士先生のオリゴ DNA (ODN) ライブラリをスクリーニングする機会を得た。ODN は、腸内細菌等のゲノムに由来する短い一本鎖 DNA で、配列依存的に多彩な免疫機能を発揮する。しかし、非免疫系の細胞に作用する ODN は知られていなかった。

スクリーニングの結果、乳酸菌ゲノムに由来する 18 塩基の ODN が強力な筋分化誘導作用を示すことを見出し、myoDN (myogenic ODN) と命名した。さらに、梅澤公二先生による分子構造の計算結果から、myoDN に結合してその活性を劇的に亢進する分子、ベルベリンを同定した。ベルベリンは、生薬キハダに含まれる安全なアルカロイドで、信州で愛用される百草丸の主成分でもある。

本セミナーでは、myoDN+ベルベリン複合体の発見と研究成果を概説するとともに、この新規分子の応用展開について紹介する。