筋分化誘導型オリゴ DNA は横紋筋肉腫細胞の増殖を抑制する

筋分化誘導型オリゴ DNA は横紋筋肉腫細胞の増殖を抑制する

進士彩華1, 中村駿一1, 二橋佑磨2, 梅澤公二1,3, 下里剛士4, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.
  4. 信州大学菌類・微生物ダイナミズム創発研究センター.

日本農芸化学会2018年度大会 (名古屋), 2018/03/17 (口演).

Abstract

【背景・目的】微生物ゲノム由来のオリゴ DNA (ODN) は、塩基配列によって多彩な免疫機能を発揮することが知られている。しかしこれまで、免疫系以外に作用する ODN の報告はなかった。我々は最近、乳酸菌 Lactobacillus rhamnosus GG のゲノム配列に由来する ODN ライブラリを用い、マウス骨格筋幹細胞 (筋芽細胞) への作用をスクリーニングした結果、筋分化を強力に促進する一連の新規 ODN 群 (myogenic ODN; myoDN) を同定した。本研究では、骨格筋を発生母地とする横紋筋肉腫 (rhabdomyosarcoma; RMS) に対する myoDN の作用を検討した。RMS は小児で最も頻度の高い軟部悪性腫瘍である。高リスク患者には超大量化学療法が試みられるが、治療後の生存率は 30% 前後であり、標準的な治療法は確立されていない。一部の RMS は筋芽細胞が起源と考えられ、骨格筋特異的な転写因子や構造タンパク質を発現している。そこで、myoDN によって筋分化を促進することができれば、RMSの増殖が抑制されるのではないかと考えた。

【方法・結果】ヒト患者の横紋筋肉腫瘍から樹立された細胞株 ERMS1 (5 歳女児骨盤由来)、RD (頸部由来)、KYM1 (7 歳女児骨盤由来) を試験に用いた。これらの細胞に 10 uM の myoDN を投与して培養し、24 時間ごとに細胞数を計測した。p53 遺伝子に変異を有する ERMS1 の増殖は、myoDN で抑制されなかった。一方、RD の増殖は myoDN 投与 96 時間後に有意に抑制され、KYM1 の増殖は myoDN 投与 48 時間後から濃度依存的に抑制された。これらの結果から、myoDN の効果は RMS 細胞株によって異なることがわかった。

次に、myoDN を投与した細胞における遺伝子発現を qPCR で定量した。myoDN 投与群では、myogenin やミオシン重鎖の骨格筋分化マーカーの発現が上昇し、細胞分裂マーカー Ki67 の発現が減少していた。一方で、アポトーシス関連遺伝子である Bax、Bcl-2、Bcl-xL の発現量は、myoDN を投与しても変化しなかった。以上の実験から、myoDN は RMS の骨格筋分化を誘導することで細胞周期を停止させ、その結果として RMS の増殖が抑制されることが示唆された。

現在、myoDN の構造活性相関の解析を進めている。今後、動物試験で myoDN の RMS 増殖抑制効果を検証することで、RMS を標的とした新規核酸医薬品の開発につながることが期待される。

Keywords: rhabdomyosarcoma, oligodeoxynucleotide, lactic acid bacteria.