胚性幹細胞 / Embryonic Stem Cells

はじめに

本稿は、"Embryonic Stem Cells" by Junying Yu and James A Thomson (2006) の邦訳です。

胚性幹細胞

ヒト胚性幹細胞 (ES 細胞) は、その不死性と、ほぼ無限の発生能力で、我々の心を捕える (図1.1: どのようにヒト ES 細胞は誘導されるか)。培養皿での何カ月にもわたる増殖の後でも、この驚くべき細胞は、筋肉でも神経でも血液でも――身体を作るどんなタイプの細胞でも――作る能力を維持している。ヒト ES 細胞が持つ増殖と発生の能力は、心臓病、パーキンソン病、白血病などの病気に対する細胞移植治療や、それらの基礎研究に必要とされる特定のタイプの細胞を、本質的には無限に供給することを可能にする。ここでは、ヒト ES 細胞の起源と特性、基礎研究とヒト医療の関連、そして、ジョージ・W・ブッシュ大統領がヒト ES 細胞の研究に連邦政府の資金提供を初めて許可した2001年8月以降の、最近の研究動向を議論する。以前のレポートでは、2001年7月以前の進歩を議論した。

ES 細胞とは何か?

ES 細胞は、子宮に着床する前の発生段階にある胚から誘導される。通常、受精は卵管で起こる。続く2〜3日の間に、胚は一連の卵割を起こしつつ、卵管から子宮へと移動する。この卵割期の胚の各細胞(割球)は未分化である。すなわち、割球は、成体を構成する特化された細胞のようには見えないし、そのような活動もしない。割球はまだ、どのタイプの細胞に分化するのかという運命づけはされていない。その代わりに、各割球は、身体の全ての細胞を作ることができる能力を持っている。ヒトにおける最初の分化イベントは、発生の約5日目、胎盤(栄養外胚葉)になる運命の外層の細胞が、内部細胞塊 (ICM) から分かれるときに生じる。ICM 細胞は、身体の全ての細胞を作る能力を持っている。しかし着床後、ICM 細胞は、より限定された発生能力しか持たない別のタイプの細胞へと分化し、その能力は急速に失われる。ところが、ICMを通常の胚の環境から取り出し、適切な条件で培養すると、この ICM に由来する細胞は、増殖して自身を複製しながら、身体の全ての細胞を作る発生能力も維持し続けられる (多能性; 図1.2: ES 細胞の特徴)。このような多能性を持つ ICM 由来細胞が ES 細胞である。

マウス ES 細胞の誘導は1981年に初めて報告されたが、ヒト ES 細胞の誘導は1998年まで報告されなかった。マウスの結果をヒトに拡張するのに、なぜこれほど長い時間がかかったのか? ヒト ES 細胞株は、人工授精 (IVF) によって作られた胚に由来する。IVF は、卵母細胞と精子を一つの培養皿で培養し、受精させるプロセスである。病院は、特定のタイプの不妊症を治療するためにこの方法を用いるが、これらの治療の過程で、時に、カップルが子供を産むのに必要な数以上の IVF 胚が作られる。現在、凍結保存されている IVF 胚は、アメリカだけでも40万個近くある。それらの大部分は不妊症の治療に使われるだろうが、一部(~2.8%)は廃棄される運命にある。2001年8月のブッシュ大統領による政策決定以前、IVF 胚は、廃棄されるのでなければ、ヒト ES 細胞株の供給源となっていた。これらのヒト ES 細胞株は現在、連邦の資金提供を受ける資格がある。ヒト ES 細胞を誘導する試みは1980年代の最初期からあったが、ヒト IVF 胚の培養液は最適化されていなかった。したがって、単一の細胞を受精させてできた胚を、健康な胚盤胞を得るために長期間培養し、ES 細胞株を誘導することは難しかった。また、ヒトとマウスの種特異的な違いは、マウス ES 細胞での経験が、ヒト ES 細胞の誘導に完全には適用できないことを意味していた。1990年代には、2つの非ヒト霊長類(アカゲザルとマーモセット)に由来する ES 細胞株が誘導され、これらはヒト ES 細胞の誘導のためのより近縁のモデルとなった。非ヒト霊長類ES細胞株での経験と、ヒト IVF 胚の培養液の改良は、急速に1998年のヒト ES 細胞株の誘導を実現した。

ES 細胞は無限に増殖することができ、どんなタイプの細胞にも分化することができるので、ヒト ES 細胞によって、これまでになかった方法でヒトの身体組織へアクセスできるようになった。このような方法は、ヒト組織の分化や機能の基礎研究をサポートし、ヒトの薬の安全性や効率性を向上させる試験のための材料を提供するだろう(図1.3: 幹細胞研究の見込み)。例えば、新しい薬は一般的に、ヒトの心臓細胞ではテストされない。なぜなら、ヒト心臓細胞株が存在しないからである。代わりに、研究者は動物モデルに頼る。しかし、動物とヒトの心臓には重大で種特異的な差異があるため、ヒトの心臓に有毒な薬がまれに臨床試験に進んでしまい、時には死をもたらした。ヒト ES 細胞からできた心臓細胞は、臨床試験に使われる前にこのような薬を特定するのに非常に役立ち、それによって、新薬発見の過程が加速され、より安全で効果的な治療が実現するかもしれない。このような試験は、心臓細胞だけでなく、他の供給源から得ることが難しいどんなタイプのヒト細胞でも限定されないだろう。

ヒト ES 細胞はまた、幅広い変性疾患の移植治療に必要な、無限の量の組織を提供する可能性を持っている。いくつかの重大なヒト疾患は、1つあるいは少数のタイプの細胞の死や機能不全によって起こる。例えば、糖尿病におけるインスリン産生細胞や、パーキンソン病におけるドーパミンニューロンである。これらの細胞の置き換えによって、これらの疾患に必要な終生の治療が提供できるようになる。しかし、ヒト ES 細胞をベースにした移植治療を開発するために多くの挑戦があり、それらの治療法が患者の治療に使われる前に、何年間もの基礎研究が必要になるだろう。実際、ヒト ES 細胞によって可能となった基礎研究は、移植治療とは無関係な方面でヒトの健康に衝撃を与えたようだ。この衝撃は、移植に ES 細胞が広く使われるよりも前に始まり、最終的には、ヒトの医療でさらに重要な一生の効果を持つらしい。2001年8月から、ヒト ES 細胞の培養における進歩は、多能性という自然現象に対する最近の洞察、ヒト ES 細胞の遺伝操作、そして分化と相まって、このユニークな細胞の可能性を拡大した。

ES 細胞の培養

マウス ES 細胞もヒト ES 細胞も最初は、ウシ血清存在下で、マウス線維芽細胞 (「フィーダー細胞」という) の層の上で誘導され、育てられた。しかし、これら2つのタイプの ES 細胞を維持する因子は異なっているようだ。血清含有培地への白血病抑制因子 (LIF) というサイトカインの追加は、マウス ES 細胞がフィーダー細胞なしで増殖することを可能にする。LIF は、STAT3 (シグナル伝達性転写因子で、転写の活性因子) タンパク質の活性化を介してマウス ES 細胞を制御する。しかし、血清フリーの培養では、マウス ES 細胞が神経細胞へ分化することを防ぐには LIF 単体では不充分である。最近、Ying らは、骨形成タンパク質 (BMP) と LIF の併用が、マウス ES 細胞の自己複製をサポートするのに充分であることを報告した。マウス ES 細胞に対する BMP の効果は、分化抑制 (Id) タンパク質の誘導と、細胞外受容体キナーゼ (ERK) および p38 分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ (MAPK) の抑制を含む。しかし、血清存在下での LIF は、ヒト ES 細胞の自己複製を促進するには充分でない。LIF/STAT3 経路は、未分化なヒト ES 細胞を不活性化するようである。また、ES 細胞をサポートするだろうという条件で、BMP をヒト ES 細胞に加えると、ヒト ES 細胞の急速な分化を引き起こしてしまう。

複数のグループが、ヒト ES 細胞を維持する成長因子を明らかにしようと試み、また、ヒト ES 細胞の非ヒト動物産物への暴露を減らす培養条件を同定しようと試みてきた。一つの重要な成長因子である bFGF は、線維芽細胞存在下のヒト ES 細胞を維持するために、代用血清の使用を可能にした。また、この培養液はヒト ES 細胞のクローナルな成長を可能にした。フィーダーフリーなヒト ES 細胞の培養系は、ヒト ES 細胞が、線維芽細胞と共培養によって以前に「条件づけられた」bFGF を含む培地中、タンパク質マトリクス (マウスのマトリゲル [基底膜マトリクス] あるいはラミニン [膜タンパク質]) の上で成長するものとして開発された。この培養系は、ヒト ES 細胞と繊維芽細胞の直接的な接触を排除するが、線維芽細胞を介してマウス病原体が培養系に誘導される可能性までは除けない。いくつかの異なるヒトフィーダー細胞の供給源が、ヒト ES 細胞の培養をサポートするために見つけられ、それによってマウスからヒトへの病原体の移動の可能性は排除された。しかし、これらの培養系では、ヒトからヒトへの病原体の移動の可能性はまだ残っている。線維芽細胞の使用を完全に除いた培養系を開発するためには、さらなる研究が必要である。その培養系は、ヒト ES 細胞の現在の培養系と関連した変異性も減少させるだろう。サトウらは、BIO [GSK3抑制剤] による Wnt 経路の活性化が、bFGF・マトリゲル・市販の代替血清中でのES細胞の自己複製を促進することを報告した。Amit らは、bFGF・TGFβ・LIF が、フィーダー非存在下で、いくつかのヒト ES 細胞株をサポートすることを報告した。どのようにしてこれらの新しい培養条件が異なるES細胞株に働くのかについては複数の謎があるが、現在、病原体の混入の可能性を減少させる、明確なヒト ES 細胞の培養条件は、すぐに達成されるだろうと信じるに足る理由がある。

一度、ヒト ES 細胞の誘導と培養の明確な培養条件のセットが確立されても、培養液を改善する挑戦は残っているだろう。例えば、ヒト ES 細胞のクローニング効率、すなわち単一のヒト ES 細胞が増殖してコロニーになる能力は、マウス ES 細胞と比べてとても低い (典型的には 1% 以下である)。他に難しいのは、長期培養の間に遺伝的・エピジェネティック的な変化の蓄積の可能性である。例えば、核型の変化は、長期間培養後のいくつかのヒト ES 細胞株で観察される。培養を左右するこれらの変化の割合は、培養方法に依存しているのかもしれない。インプリントされた (エピジェネティックに修飾された) 遺伝子のステータスと、様々な培養条件におけるインプリンティングの安定性は、ヒト ES 細胞ではまだ完全に研究されていない。インプリントされた遺伝子のステータスは、他の細胞でも培養条件とともに明確に変化し得る。このような変化は、ヒト ES 細胞が細胞移植治療に使われれば、可能性のある問題として存在する。培養中に蓄積する遺伝的・エピジェネティックな変化の割合を減少させるための培養液の最適化は、長期間に渡る努力を必要とする。それから、理想的なヒト ES 細胞の培養液とは、(a) 費用効果があり、使うのが簡単で、これにより、より多くの研究者がヒトES細胞を研究のツールとして使うことができるものだろう。(b) 動物由来ではなく完全に明確な成分から構成されたものとなるだろう。(c) クローナルな密度で細胞が成長できるものだろう。(d) そして、培養中に蓄積される遺伝的・エピジェネティックな変化の割合を最小化するものだろう。このような培養液は、開発するのに挑戦が必要で、何年にも渡る一連の改良の増加によって達成されるだろう。

新しく誘導された全てのヒト ES 細胞株の中で、12株がほとんどの注目を集めてきた。2004年3月には、韓国のグループが、体細胞核移植 (SCNT) の技術を使ったヒト ES 細胞株 (SCNT-hES-1) の誘導を初めて報告した。ヒトの体細胞核は、ヒト卵母細胞に移植された (核移植)。この卵母細胞は、あらかじめ自身の遺伝物質を取り除かれていた。結果としての核移植産物は、ES 細胞を誘導するために胚盤胞のステージまで in vitro で培養された。核移植を通じて誘導された ES 細胞は、核のドナーと同じ遺伝物質を含む。この手法の目的は、この ES 細胞から分化した細胞を移植治療で使っても、、ドナーの免疫系によって拒絶されないだろうということである。さらに最近、同じグループは、著しく改善された効率 (16.8卵母細胞/株 vs 242卵母細胞/株) による、さらなる11のヒト SCNT-ES 細胞株の誘導を報告した [これらの論文は後に撤回された]。しかし、クローン動物では、頻繁に異常が観察され、コストが含まれており、そして、この手法が臨床応用にどのように役立つのかは明らかではない。また、I型糖尿病のようないくつかの自己免疫疾患のためには、単に遺伝的に適合する組織を供給するだけでは、免疫拒絶を防ぐには不充分である。

加えて、着床前遺伝子診断 (PGD) の実施によって検出される遺伝性疾患を持つ胚から新しいヒト ES 細胞株が樹立された。これらの新しい細胞株は、細胞の増殖や分化に影響する遺伝子変異の研究の素晴らしい in vitro のモデルを提供するかもしれない。現在まで、120以上のヒト ES 細胞株が世界中で樹立され、そのうち67株は NIH の登録にふくまれている。ここで書いているように、21細胞株は現在分与可能で、それらの全ては誘導の過程で動物由来成分に暴露されている。ヒト ES 細胞の最初の誘導 [1998年] から8年が経つが [このテキストが書かれたのは2006年]、一つの株から分離して独立したヒトES細胞株の範囲をどうするかは未解決の問題である。いずれにせよ、限られた数の細胞株は、アメリカ内の異なる民族グループの遺伝的多様性の適切なサンプリングにはならない。また、薬への有害な反応はしばしば複雑な遺伝要素を反映するように、薬のテストにとっても [同じ] 成り行きとなる。一度、ヒト ES 細胞のための明確な培養条件が確立されれば、追加の細胞株を誘導する必要性がより説得力のあるものとなるだろう。

ES 細胞の多能性 (多分化能性)

身体のどんな細胞のタイプにも発生する ES 細胞の能力は、何年も科学者たちを魅惑してきたが、その分化の潜在能力において、一つの細胞を多能性にし、他 [の細胞の多能性を] をより限定させる因子については、まだ驚くほど少しのことしかわかっていない。転写因子 Oct4 は、ES 細胞や、完全な胚の多能性細胞のキーとなるマーカーとして使われており、ES 細胞が未分化なままであるためには、その発現は臨界レベルで維持されなければならない。しかし、Oct4 タンパクそれ自身は、ES 細胞を未分化な状態に維持するには不充分である。最近、2つのグループが、Nanog という別の転写因子を同定した。Nanog は、マウス ES 細胞の未分化状態の維持に必須である。Nanog の発現は、マウス ES 細胞の分化にともなって急速に減少した。構成的なプロモーターによって Nanog の発現レベルが維持されたとき、マウス ES 細胞は、LIF か BMP の一方を欠く血清フリーの培養液中でも未分化を維持して増殖することができた。Nanog はヒト ES 細胞でも発現しているが、Oct4 と比べて非常に低いレベルであり、ヒト ES 細胞におけるその機能もまだ調べられていない。

異なる ES 細胞株間や、ES 細胞と体性幹細胞や分化した細胞などの他の細胞タイプとの間で、遺伝子発現パターンを比較することにより、ES 細胞で豊富な遺伝子が同定されてきた。このアプローチを使って、Esg-1 という性質不明の ES 細胞特異的な遺伝子が、もっぱらマウスの多能性に関連するものとして見つかった。Sperger らは、ヒト ES 細胞、および胚性がん細胞株というES細胞の悪性のカウンターパートにおいて、特異的に高いレベルで発現している895遺伝子を同定した。サトウらは、分化したカウンターパートと比較して、未分化なヒト ES 細胞で豊富な一連の918遺伝子を同定した。それらの遺伝子の多くは、マウス ES 細胞でもシェアされていた。他のグループは、6つの異なるヒト ES 細胞株で豊富な、Oct4 と Nanog を含む92遺伝子を見つけたが、それらは、マウス ES 細胞で豊富な遺伝子群と限られたオーバーラップしか見せなかった。これらのデータを解釈するには注意が必要である。結果における考慮すべき違いは、実験に使われた細胞株や、細胞を準備し維持する方法や、遺伝子発現をプロファイリングするのに使われた特定の方法に起因しているのかもしれない。

ES 細胞の遺伝的操作

1998年にヒト ES 細胞が樹立されてから、科学者たちは、ヒト ES 細胞を特定の細胞タイプに直接分化させたり、あるいは、あるマーカー遺伝子で ES 細胞の誘導体をタグ付けするために、特定の遺伝子の機能を決定する遺伝的操作の技術を開発してきた。いくつかのアプローチが、ヒト ES 細胞に遺伝的配列をランダムに導入するために開発されてきた。それらは、電気穿孔法、脂質をベースとした試薬によるトランスフェクション、そしてレンチウイルスベクターを含む。しかし、ES 細胞の中にある特定の遺伝子を、人工的に導入された DNA 分子によって修正する方法である相同組換えは、遺伝子工学のより正確な手法であり、特定の遺伝子座にある遺伝子を明確な方法で修正できる。この技術はマウス ES 細胞では日常的に使われている一方、ヒト ES 細胞では最近成功裏に開発された。つまり、ES 細胞を遺伝子治療の乗り物として使ったり、レッシュ・ナイハン症候群 [遺伝性プリン体代謝異常。尿素が作れずに体内に尿酸が溜まり、腎不全となる] のようなヒトの遺伝性疾患の in vitro のモデルを作ったりするための新しいドアを開いたわけである。遺伝子の機能をテストする別の方法は、興味のある遺伝子の発現を減少させるために RNA 干渉法 (RNAi) を使うことである (Figure 1.4: RNA 干渉法)。RNAi では、二重鎖 RNA の小さな断片 (siRNA) が、化学的に合成されるか、直接細胞の中に導入されるか、あるいは DNA ベクターから発現される。一度細胞の中に入れば、siRNA は、siRNA と同じ正確な配列を含むメッセンジャー RNA (mRNA) の分解を誘導することができる。mRNA は DNA の転写産物であり、通常、タンパク質に翻訳される。RNAi は体細胞では効果的に働き、この技術を ES 細胞に応用においていくつかの進歩があった。

ヒト ES 細胞の分化

ES 細胞の多能性は、これらの細胞とその誘導体の広範な使用の可能性を示唆する。ES 細胞に由来する細胞は、糖尿病、心臓発作、パーキンソン病、あるいは脊髄損傷のような病気や障害によってダメージを受けた組織を置換したり修復するために使われる可能性がある。これた特定の分野における最近の開発は、他のチャプターで詳しく議論される。Table 1 は、特定の細胞系譜の分化における最近の [論文の] 出版を要約している。

ES 細胞の分化はまた、ヒトの発生における初期の出来事を研究するためのモデル系を提供する。子供となるものを傷つける可能性があるため、着床後のヒト胚を実験的に操作することは倫理的に容認されない。したがって、初期のヒトの発生学やヒトの発生、特に着床直後の期間のメカニズムについて知られていることのほとんどは、限られた数のヒト胚の組織切片や、マウスの実験発生学からの類推がベースになっている。しかし、ヒトとマウスの胚、特にタイ膜および胎盤の形成・構造・機能や、卵筒の代わりの胚盤の形成は大きく異なる。例えば、マウスの卵黄嚢は、よく血管が形成され、頑強な胚外の組織である。それは、妊娠を通じて重要な栄養交換機能を提供する。ヒトでは、卵黄嚢は、造血の開始を含む重要な初期的機能も提供するが、妊娠の後期のステージでは本質的に痕跡器官となってしまう。同様に、マウスとヒトの胎盤には、構造と機能の両面で劇的な違いがある。したがって、マウスは、ヒトの妊娠の開始および維持をサポートする発生学的な出来事を理解するためのモデル系としては限られた能力しか提供できない。ヒト ES 細胞株は、したがって、ヒト組織の分化についての我々の理解を向上させる重要で新しい in vitro のモデルを提供し、そして、不妊、流産、先天異常のようなプロセスへの重要な見通しを提供するだろう。

ヒト ES 細胞はすでに発生の研究に貢献している。例えば、現在では、ヒト ES 細胞を効率的に栄養芽細胞へと直接分化させることが可能である。栄養芽細胞は、胎盤の外層で、着床を媒介し、受胎産物を支給へとつなぐ。ヒト ES 細胞の別の使い方として、生殖細胞の発生の研究がある。卵母細胞や精子の両方に似ている細胞は、in vitro でマウス ES 細胞から成功裏に誘導された。最近、ヒト ES 細胞もまた、生殖細胞を特徴づける遺伝子を発現する細胞への分化することが観察された。したがって、ヒト ES 細胞から卵母細胞や精子を誘導することも可能になるかもしれないし、それはヒトの配偶子形成の詳細な研究を初めて可能にするかもしれない。さらに、ヒト ES 細胞の研究は、初期分化だけに限らず、神経、心臓、血管、膵臓、肝臓、そして骨を含む多くのヒト組織の分化と機能を理解するためにますます使われている。さらに、ES 由来細胞の移植は、動物モデルで有望な結果を出している。

科学者たちは、2001年からヒト ES 細胞の生物学へのより多くの展望を得てきたが、これらのユニークな細胞の全ての潜在能力が理解され得る前に、たくさんのキーとなる謎が取り組むべきものとして残っている。例えば、マウスとヒトの ES 細胞が、それらの自己複製、そして恐らくそれらの発生学的能力を調節する分子に関して、非常に違うように見えるのは驚くべきことである。例えば、LIF と BMP の併用は、マウス ES 細胞の自己複製を促進する。しかし、未分化な増殖をサポートするであろうこの条件では、BMP はヒト ES 細胞の急速な分化を引き起こす。また、ヒト ES 細胞は、かなり簡単に栄養芽細胞へ分化するが、一方、マウス ES 細胞はほとんど、もしくは全く分化しない。いくつかのレベルで予測される一つのことは、多能性をコントロールする基本的な分子メカニズムは保存されているだろうということで、実際、ヒトとマウスの ES 細胞は多くのキーとなる遺伝子の発現を共有している。我々はまだ、多能性をコントロールする分子メカニズムについて著しく無知であり、そして、この注目すべき細胞の状態の本質は、発生生物学の中心的な問題の一つとなっている。もちろん、、他の偉大な挑戦が、特定の系列へのヒトES細胞の分化をコントロールする因子を解明するために続けられるだろうし、それにより ES 細胞は、ヒトの基礎生物学、薬のスクリーニング、移植医療における膨大な見込みを果たすことができる。