BMP2 依存的な骨分化における筋形成型オリゴ DNA の作用

BMP2 依存的な骨分化における筋形成型オリゴ DNA の作用

松島もも.

信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.

Abstract

【目的】当研究室で同定された18塩基の筋形成型オリゴ DNA である iSN04 は、核タンパク質ヌクレオリンに結合するアプタマーであり、骨格筋前駆細胞 [1]、心筋前駆細胞 [2]、血管平滑筋細胞 [3] の分化を促進する一方、脂肪前駆細胞の分化を抑制する [4]。これらの細胞は中胚葉由来であり、間葉系幹細胞から分化する点で共通している。骨細胞の前駆細胞である骨芽細胞も間葉系幹細胞より分化するため、骨分化においても iSN04 が作用するのではないかと考えた。そこで本研究ではマウス頭蓋冠由来骨芽細胞様細胞株 MC3T3-E1 を用いて、骨芽細胞の分化・石灰化における iSN04 の作用を検討した。

【方法】MC3T3-E1 に骨形成タンパク質 BMP2 を投与し、骨分化を誘導した。骨分化マーカーであるアルカリフォスファターゼ (ALP) 活性、アリザリン染色および定量 PCR によって、骨芽細胞の分化と骨細胞の石灰化における iSN04 の作用を検討した。また、リン酸化 Smad1/5 の免疫染色およびウエタンブロッティングにより、骨分化を誘導する BMP-Smad シグナル伝達経路における iSN04 の作用を評価した。

【結果】iSN04 を投与した MC3T3-E1 では、ALP 活性およびアリザリン染色領域が有意に減少し、骨基質タンパク質オステオカルシン (Bglap2) とALP (Alpl) の発現量も有意に減少した。また、BMP シグナル伝達を媒介する Smad1/5 のリン酸化と核移行は、iSN04 の投与により有意に抑制された。

【考察】本研究で iSN04 は、BMP2 依存的な Smad1/5 のリン酸化を阻害し、骨分化関連遺伝子の発現を抑制することで骨芽細胞の分化および骨細胞の石灰化を抑制することがわかった。今後、iSN04 が直接標的にしているヌクレオリンが Smad1/5 とどのように関わっているのかを検討する必要がある。

先行研究と本研究より、iSN04 が間葉系幹細胞由来の筋系列前駆細胞の分化を促進し、非筋系列前駆細胞の分化を抑制することがわかったが、間葉系幹細胞に対する iSN04 の作用は不明である。iSN04 によって間葉系幹細胞の分化運命を制御することが可能になれば、再生医療や幹細胞治療への応用が期待される。

【参考文献】

  1. Shinji et al., Front. Cell Dev. Biol. 2020; 8: 616706.
  2. Ishioka et al., Int. J. Mol. Sci. 2023; 24: 14380.
  3. Miyoshi et al., Biomolecules 2024; 14: 709.
  4. 森岡一乃, 2020年度専攻研究論文.