異所性骨化における筋形成型オリゴ DNA の作用

異所性骨化における筋形成型オリゴ DNA の作用

石田智香.

信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.

Abstract

【目的】18塩基の抗ヌクレオリンアプタマーである iSN04 (5'-AGA TTA GGG TGA GGG TGA-3') は、筋分化を強力に促進し [1]、骨分化を抑制するため、異所性骨化の治療に有用ではないかと考えた。骨ではない部位に骨形成が起こる異所性骨化は、過剰な骨形成タンパク質 (BMP) によって外傷や手術でも惹起される。骨格筋前駆細胞 (筋芽細胞) は、BMP の投与により筋分化が阻害され骨分化が誘導されることから、筋組織の異所性骨化モデルとして用いられる。本研究では、BMP2 を投与したマウス筋芽細胞株 C2C12 の筋分化および骨分化における iSN04 の作用を検討した。

【方法】マウス筋芽細胞株 C2C12 に BMP2 および iSN04 を投与して筋分化を誘導した。免疫染色および定量 PCR により、BMP2 によって阻害された筋分化が iSN04 によって回復するかを検討した。また、iSN04 が BMP-Smad シグナル経路にどのように作用して骨分化を阻害するのか、免疫染色およびウエスタンブロッティングで検討した。

【結果】C2C12 細胞に BMP2 と iSN04 を投与して筋分化誘導し、48時間後にミオシン重鎖 (MHC) の免疫染色で筋分化を評価した。対照群と比較して、BMP2 投与群では MHC 陽性の筋細胞の割合が有意に減少したが、iSN04 の投与で回復した。定量 PCR の結果、分化誘導24時間後には、筋特異的な遺伝子の発現量が BMP2 投与群で減少して iSN04 投与群で増加し、分化誘導8日後には、骨特異的な遺伝子の発現量が BMP2 投与群で増加して iSN04 投与群で減少することがわかった。また、ウエスタンブロッティングにより、BMP2 依存的な Smad1/5 のリン酸化は、iSN04 の投与で抑制されることが分かった。免疫染色から、リン酸化 Smad1/5 は BMP2 刺激で細胞質から核に移行するが、iSN04 の投与で核移行が阻害されることが確認された。以上の結果から、iSN04 は BMP2 依存的な Smad1/5 のリン酸化を阻害することで、筋細胞の骨分化を抑制していることが示唆された。

【考察】iSN04 はマウス筋芽細胞株 C2C12 において、BMP-Smad シグナルにおける Smad1/5 のリン酸化を抑制することで、筋分化を回復させることが明らかとなった。iSN04 は BMP 依存的な筋分化阻害を回復して骨分化を抑制したことから、異所性骨化の治療に有効な核酸医薬品シーズとして期待される。今後、マウスに BMP を注射して異所性骨化を誘導した in vivo モデルで iSN04 の効果を検証していく必要がある。

【参考文献】

  1. Shinji S, Front. Cell Dev. Biol. (2021) 8: 616706.