ヌクレオリン阻害を介した筋形成型オリゴ DNA の抗炎症作用

ヌクレオリン阻害を介した筋形成型オリゴ DNA の抗炎症作用

山本万智1, 三谷塁一1, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学バイオメディカル研究所.

第22回日本抗加齢医学会 (大阪), 2022/06/18 (口演).

Abstract

【目的】がんや糖尿病など、全身的な慢性炎症が生じる疾患の多くが筋萎縮を合併する。筋量の減少はこれら疾患の予後と強く相関するため、筋萎縮治療薬の開発が求められている。我々は最近、18塩基の筋形成型オリゴ DNA (iSN04) が抗ヌクレオリンアプタマーとして機能し、がん分泌物や糖尿病で悪化する筋芽細胞の分化を回復することを報告した。興味深いことに、iSN04 は同時に筋芽細胞の炎症反応も抑制することがわかっている。そこで本研究では、iSN04 の抗炎症作用機序を調べた。

【方法・結果】マウス筋芽細胞株 C2C12 に iSN04 を3時間前処理した後、TLR2 リガンド (Pam3CSK4, FSL-1) または TNF-α を投与して炎症を誘導し、2時間後に qPCR で炎症性サイトカインの発現を定量した。その結果、リガンド投与によるインターロイキン6および TNF-α の発現誘導は、iSN04 の前処理で有意に抑制された。免疫染色の結果、リガンド投与30分以内に生じる炎症性転写因子 NF-κB の核内移行が、iSN04 の前処理で阻害されることがわかった。ルシフェラーゼアッセイでも同様に、リガンド依存的な NF-κB の転写活性が iSN04 の前処理で有意に抑制された。以上の結果から、iSN04 は、TLR2 リガンドや TNF-α 刺激による NF-κB の核内移行を阻害し、下流の炎症性サイトカインの発現を抑制することで抗炎症作用を発揮することが明らかになった。NF-κB の転写活性を調節するシグナルの一つに Wnt/β-カテニン経路がある。ヌクレオリンは GSK-3β のリン酸化を介して β-カテニンの分解に関与することが知られる。iSN04 はヌクレオリンを阻害することで β-カテニン経路に作用することが考えられ、現在、解析を進めている。炎症反応は筋分化を抑制することが知られる。本研究でも、TNF-α 投与で阻害される筋分化が、iSN04 の前処理によって有意に改善されることを認めた。したがって、iSN04 の筋分化促進作用の一部は、抗炎症作用に依拠していると推測される。iSN04 は、炎症を沈静化し、筋萎縮を防ぐ核酸分子として、新たな医薬品のシーズとなることが期待される。