ヒト胎児型横紋筋肉腫細胞における筋形成型オリゴ DNA の作用

ヒト胎児型横紋筋肉腫細胞における筋形成型オリゴ DNA の作用

野平直樹1, 二橋佑磨2, 下里剛士1,2,3, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学大学農学部.
  2. 信州大学大学院総合医理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

日本農芸化学会中部支部第190回支部例会 (名古屋), 2021/09/18 (口演).

Abstract

【目的】骨格筋を発生母地とする横紋筋肉腫は、小児で最も頻度が高い軟部悪性腫瘍である。確立した治療法はなく、高リスク患者には超大量化学療法が用いられるが、予後生存率は約 30% であり、革新的な治療薬が希求されている。胎児型横紋筋肉腫は、骨格筋の発生の全段階で生じ得ることが知られている。したがって、横紋筋肉腫細胞の筋分化を誘導することで、腫瘍増殖が抑制できるのではないかと期待される。我々は最近、乳酸菌ゲノムに由来する18塩基の筋形成型オリゴ DNA (iSN04) が、骨格筋分化を促進することを報告した。そこで本研究では、iSN04 が横紋筋肉腫の筋分化を誘導し、細胞増殖を抑制するかを検討した。

【方法・結果】ヒト胎児型横紋筋肉腫から樹立された細胞株である RD、ERMS1、KYM1 を用いた。まず、各細胞に 10 uM の iSN04 を投与して培養し、細胞数を経時的に計測した。iSN04 投与群の細胞数は、RD では96時間後、ERMS1 と KYM1 では72時間後に対照群と比べて有意に減少していた。次に、iSN04 を投与した細胞における遺伝子発現を qPCR で定量した。iSN04 投与により、RD では、未分化な骨格筋マーカーである PAX3PAX7 が有意に減少し、ミオシン重鎖 MYH3 と細胞周期阻害因子 CDKN1C が有意に増加した。同様に iSN04 は、ERMS1 では CDKN1C を、KYM1 では筋原性転写因子 MYOGCDKN1C の発現量を有意に増加させた。また、RD と ERMS1 で、iSN04 投与により細胞増殖マーカー MKI67 の発現が有意に減少した。以上の結果から、iSN04 は横紋筋肉腫の増殖を抑制するとともに、一部の骨格筋マーカーの発現を誘導することがわかった。一方、iSN04 の効果は細胞株によって異なることも明らかになった。今後、iSN04 の作用機序を詳細に解析することで、横紋筋肉腫の治療薬の開発につながることが期待される。