筋形成型オリゴ DNA は脂肪前駆細胞の分化と炎症反応を抑制する

筋形成型オリゴ DNA は脂肪前駆細胞の分化と炎症反応を抑制する

森岡一乃1, 三谷塁一1, 梅澤公二1,2, 下里剛士1,2, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学バイオメディカル研究所.

日本農芸化学会中部支部第190回支部例会 (名古屋), 2021/09/18 (口演).

Abstract

【目的】肥満は、脂肪前駆細胞から分化した脂肪細胞が、過剰な脂質を溜め込み肥大することで生じる。脂肪細胞が分泌するサイトカインは炎症を惹起し、生活習慣病の発症リスクを増大する。したがって、脂肪の分化と炎症の制御は、メタボリックシンドロームの予防に重要である。我々は最近、乳酸菌ゲノムに由来する18塩基の筋形成型オリゴ DNA (iSN04) が、筋分化を促進するとともに、炎症性サイトカインの発現を抑制することを報告した。脂肪分化と筋分化は排他的なプロセスであるため、iSN04 には脂肪分化を抑制する効果が期待される。そこで本研究では、脂肪前駆細胞の分化と炎症反応における iSN04 の作用を検討した。

【方法】脂肪前駆細胞のモデルであるマウス胎児線維芽細胞株 3T3-L1 に iSN04 を投与して分化誘導し、Oil Red O による脂肪滴の染色と、qPCR による脂肪特異的遺伝子の発現定量により脂肪分化を評価した。また、TNF-α 投与による炎症性サイトカインの発現誘導が、iSN04 の前投与で抑制されるかを qPCR で解析した。

【結果】分化誘導0~10日目まで継続的に iSN04 を投与すると、脂肪滴を有する成熟脂肪細胞への分化が著名に抑制された。iSN04 投与群では、脂肪特異的な転写因子である PPARγ や CEBPα、脂肪酸結合タンパク質 FABP4、脂肪滴の膜タンパク質ペリリピンの発現が有意に減少した。iSN04 の投与時期を検討した結果、分化0~4日目に iSN04 を投与すると成熟脂肪細胞への分化が十分に抑制されることがわかった。また、未分化な 3T3-L1 細胞を TNF-α で刺激すると IL-6 と TNF-α の発現が誘導されたが、これらの発現上昇は iSN04 の前投与によって有意に抑制された。

【結論】iSN04 は、脂肪前駆細胞の分化初期に作用し、脂肪特異的な遺伝子の発現を抑制し、脂肪細胞の分化・成熟を阻害することが明らかになった。また、iSN04 は脂肪前駆細胞において抗炎症作用を示すことが示唆された。iSN04 は、肥満をはじめとする生活習慣病の予防や治療に有用であると期待される。