筋形成型オリゴ DNA による平滑筋細胞の分化制御

筋形成型オリゴ DNA による平滑筋細胞の分化制御

三好愛1, 二橋佑磨2, 梅澤公二1,2,3, 下里剛士1,2,3, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学大学院総合医理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

日本農芸化学会中部支部第190回支部例会 (名古屋), 2021/09/18 (口演).

Abstract

【目的】動脈硬化に代表される血管障害は、日本人の死因の上位を占める心筋梗塞や脳梗塞の危険因子である。アテローム性動脈硬化では、粥状病変において血管平滑筋が脱分化して過剰に増殖し、内膜肥厚と血管内腔の狭窄を惹起する。一方、メンケベルグ型動脈硬化では血管平滑筋が石灰化するが、このプロセスでは、骨分化に類似した遺伝子発現の変化が生じる。したがって、血管平滑筋の分化制御は、動脈硬化の予防や治療において重要な課題である。我々は最近、乳酸菌ゲノム配列に由来する18塩基の筋形成型オリゴ DNA (iSN04) が、ヌクレオリンを標的とするアプタマー (核酸抗体) として機能し、骨格筋分化を促進することを報告した。本研究では、血管平滑筋の分化における iSN04 の作用を検討した。

【方法・結果】市販のヒト大動脈平滑筋細胞 (hAoSMC) を用いた。30 uM の iSN04 を添加した培地で hAoSMC を48時間培養し、EdU 染色によって細胞増殖を、qPCR で遺伝子発現を定量した。iSN04 投与群では、EdU 陽性細胞率が有意に減少し、平滑筋の分化マーカーの発現量が有意に上昇した。これらの結果から、iSN04 が血管平滑筋の増殖を抑制し分化を誘導することが明らかになった。また、骨分化における iSN04 の作用を検討するため、マウス前駆骨芽細胞株 MC3T3-E1 を 30 uM の iSN04 を添加した培地で分化誘導し、48時間後にアルカリフォスファターゼ (ALP) 染色に供した。iSN04 投与群では ALP 活性が著名に減少したことから、iSN04 は骨分化を抑制することが示唆された。iSN04 は骨分化を阻害したことから、血管平滑筋においても石灰化を抑制することが推測される。以上の結果から、iSN04 は、アテローム性動脈硬化における平滑筋の過剰増殖や、メンケベルグ型動脈硬化における平滑筋の石灰化を抑制する核酸医薬品のシーズとして期待される。