筋形成型オリゴ DNA は脂肪細胞分化を抑制する

筋形成型オリゴ DNA は脂肪細胞分化を抑制する

森岡一乃1, 三谷塁一1, 梅澤公二1,2, 下里剛士1,2, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学バイオメディカル研究所.

第21回日本抗加齢医学会 (京都), 2021/06/27 (口演).

Abstract

【目的】肥満は、脂肪前駆細胞から分化した脂肪細胞が、過剰な脂質を溜め込み肥大することで生じる。成熟脂肪細胞が分泌するアディポカインは、生活習慣病の発症リスクを増大する。したがって、脂肪分化の制御は、肥満を抑制し、メタボリックシンドロームへの進展を防ぐために重要である。脂肪前駆細胞は、骨格筋前駆細胞と同じく、間葉系幹細胞から分化する。脂肪分化と筋分化は排他的なため、一般的に、筋分化の誘導は脂肪分化を抑制する。我々は最近、筋分化を促進する筋形成型オリゴ DNA として、18塩基の iSN04 を同定した。iSN04 は多機能タンパク質ヌクレオリンと直接結合し、その機能を阻害することがわかっている。本研究では、脂肪分化における iSN04 の作用を検討した。

【方法】脂肪前駆細胞のモデルであるマウス胎児線維芽細胞株 3T3-L1 に iSN04 を投与して分化誘導し、細胞内の中性脂質を Oil Red O で可視化・定量することで脂肪分化を評価した。また、脂肪特異的な遺伝子の発現変化を qPCR で解析した。免疫染色により、脂肪分化におけるヌクレオリンの細胞内局在を調べた。

【結果】3T3-L1 細胞の分化に伴って、ヌクレオリンは核小体から細胞質へと移行した。分化誘導 0〜10日目まで継続的に iSN04 を投与すると、脂肪滴を有する成熟脂肪細胞への分化が著明に抑制された。同様に、ヌクレオリン阻害剤 AS1411 投与群でも脂肪分化が抑制されたが、その効果は等濃度の iSN04 よりも低かった。iSN04 投与群では、脂肪特異的な転写因子である PPARγ や CEBPα、脂肪酸結合タンパク質 FABP4、脂肪滴の膜タンパク質ペリリピンの発現が有意に減少した。iSN04 の投与時期を検討した結果、分化0~4日目に iSN04 を投与すると成熟脂肪細胞への分化が十分に抑制されることがわかった。

【結論】iSN04 は、脂肪前駆細胞の分化初期にヌクレオリンを阻害することで、脂肪特異的な遺伝子の発現を抑制し、脂肪細胞の分化・成熟を阻害することが明らかになった。iSN04 は、肥満をはじめとする生活習慣病の予防や治療に有用であると期待される。