脂肪細胞の分化における筋形成型オリゴ DNA の作用
森岡一乃.
信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.
Abstract
【目的】肥満は生活習慣病の危険因子であり、健康寿命を阻害する大きな要因である。肥満は、脂肪前駆細胞から分化した脂肪細胞が、過剰な脂質を溜め込み肥大することで生じる。成熟脂肪細胞が分泌するアディポカインは、生活習慣病の発症リスクを増大する。したがって、脂肪分化の制御は、肥満を抑制し、メタボリックシンドロームへの進展を防ぐために重要である。脂肪前駆細胞は、筋芽細胞と同じく、間葉系幹細胞から分化する。このとき、脂肪前駆細胞と筋芽細胞は排他的に分化するため、一般的に、筋分化の誘導は脂肪分化を抑制する。当研究室では最近、筋芽細胞の分化を促進する筋形成型オリゴ DNA として、18塩基の iSN04 が同定された。本研究では、脂肪分化における iSN04 の作用を検討した。
【方法】脂肪前駆細胞のモデルであるマウス胎児線維芽細胞株 3T3-L1 に iSN04 を投与して分化誘導した。脂肪分化は、細胞内の中性脂質を Oil Red O で可視化・定量することで評価した。また、脂肪特異的な遺伝子の発現変化を qPCR で解析した。免疫染色により、iSN04 の標的タンパク質ヌクレオリンの局在が脂肪分化によって変化するかを調べた。
【結果】分化誘導0~10日目まで iSN04 を投与した群では、脂肪滴を有する成熟した脂肪細胞の数が顕著に減少した。iSN04 投与群では、脂肪特異的転写因子 PPARγ、PPARγ と相互作用する転写因子 CEBPα、脂肪酸結合タンパク質 FABP4、脂肪滴の膜タンパク質ペリリピンの発現が有意に減少した。免疫染色の結果、ヌクレオリンは脂肪前駆細胞の核小体に局在するが、分化に伴って細胞質へと拡散することがわかった。ヌクレオリン阻害剤 AS1411 は iSN04 同様に脂肪分化を抑制し、iSN04, AS1411 投与群ではともに脂肪分化に伴うヌクレオリンの拡散が抑制されることがわかった。以上の結果から、iSN04 はヌクレオリンの細胞内局在に影響し、脂肪特異的な遺伝子発現を抑制することで脂肪分化を阻害することが示唆された。
【考察】本研究により、筋分化を促進する iSN04 は脂肪分化を抑制することが示された。iSN04 は、脂肪前駆細胞を標的とした抗肥満核酸薬として、メタボリックシンドローム予防への貢献が期待される。
【参考文献】
Shinji et al., Front. Cell Dev. Biol., 2021; 8: 616706.