血管平滑筋細胞の分化における筋形成型オリゴ DNA の作用
三好愛.
信州大学 農学部 農学生命科学科 動物資源生命科学コース.
Abstract
【目的】動脈硬化は、日本人の死因の上位を占める心血管疾患の危険因子である。アテローム性動脈硬化では、粥状病変で血管平滑筋が脱分化して過剰に増殖し、血管内腔が狭窄する。メンケベルグ型動脈硬化では血管平滑筋が石灰化するが、このプロセスでは、骨分化と類似した遺伝子発現の変化が生じる。したがって、血管平滑筋細胞の分化を制御することは、動脈硬化の予防や治療において重要な課題である。当研究室では最近、ヌクレオリンを標的として筋分化を促進する筋形成型オリゴ DNA として、18塩基の iSN04 が同定された。本研究では、血管平滑筋細胞の分化における iSN04 の作用を検討した。
【方法】市販のヒト大動脈平滑筋細胞 (hAoSMC) を用いた。30 uM の iSN04 を添加した培地で hAoSMC を48時間培養し、EdU 染色によって細胞増殖を、qPCR で遺伝子発現を定量した。また、骨分化における iSN04 の作用を検討するため、マウス前駆骨芽細胞株 MC3T3-E1 を用いた。30 uM の iSN04 を添加した培地で MC3T3-E1 を分化誘導し、48時間後にアルカリフォスファターゼ (ALP) 染色によって骨分化を評価した。
【結果】iSN04 を投与した hAoSMC では、EdU 陽性細胞率が有意に減少し、平滑筋の分化マーカーである α-アクチン (ACTA2)、SM22-α (TAGLN)、カルデスモン (CALD1) 遺伝子の発現量が上昇した。また、MC3T3-E1 では、iSN04 投与群において ALP 活性が著名に減少したことから、iSN04 は骨芽細胞の分化を抑制することが示唆された。
【考察】iSN04 が血管平滑筋細胞の増殖を抑制し分化を誘導することが明らかになった。さらに、iSN04 は骨芽細胞の分化を阻害したことから、血管平滑筋においても石灰化を抑制することが推測される。今後は血管平滑筋細胞におけるヌクレオリンの役割を解明し、iSN04 の作用機序を検討していきたい。iSN04 は、アテローム性動脈硬化における平滑筋の過剰増殖や、メンケベルグ型動脈硬化における平滑筋の石灰化を抑制し、抗動脈硬化作用を示す核酸医薬品のシーズとして期待される。
【参考文献】
Shinji et al., Front. Cell Dev. Biol., 2021; 8: 616706.