グルコース濃度の急激な変化がマウス筋芽細胞の増殖に及ぼす影響

グルコース濃度の急激な変化がマウス筋芽細胞の増殖に及ぼす影響

中村駿一1, 米倉真一1,2, 高谷智英1,2.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学大学バイオメディカル研究所.

第18回日本抗加齢医学会 (大阪), 2018/05/26 (口演).

Abstract

血糖値スパイクは、血糖値が食後2時間までに急上昇した後、正常値に戻る現象である。空腹時血糖は正常値であるため、血糖値スパイクを通常の健康診断で発見することは困難である。血糖値スパイクの潜在的な患者数は、痩せ型の若年層を含め1400万人以上と推計されている。近年、血糖値スパイクが、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞、アルツハイマー型認知症などの危険因子であることが明らかになりつつある。血管内皮細胞や脂肪細胞を断続的に高濃度グルコース (high glucose; HG) に暴露すると、炎症性サイトカインの産生や活性酸素種の蓄積が亢進する。しかし、血糖値スパイクが骨格筋芽細胞に及ぼす影響についての報告はまだない。筋芽細胞は、骨格筋組織の恒常性維持に中心的な役割を果たす筋前駆細胞である。筋芽細胞の増殖・分化能の低下は、筋力や筋量の減少を伴うロコモティブ症候群の一因と考えられており、筋芽細胞の機能維持は超高齢社会における重要な課題となっている。

本研究では、マウス筋芽細胞株 C2C12 の増殖が、血糖値スパイクを模した断続的な HG への暴露によって変化するかを検討した。C2C12 細胞を以下の4条件で最大12日間継代培養し、2-3日ごとに細胞数を計測した。1: 通常グルコース濃度 (normal glucose; NG、5.6 mM)、2: HG (25 mM)、3: NG と HG を24時間ごとに交換 (oscillated high glucose; OG)、4: NG で培養中24時間ごとに1時間 HG に暴露 (intermittent high glucose; IG)。その結果、NG 群 > IG 群 > OG 群 > HG 群と、HG への暴露時間が長いほど細胞数が減少する傾向を認めた。C2C12 細胞の増殖が IG で抑制されることから、生体内でも、血糖値スパイクが筋芽細胞の増殖に影響している可能性が示唆された。

現在、上記条件で培養した C2C12 細胞の筋分化能が変化しているかを検証中である。今後、血糖値スパイクのモデル培養系を構築することで、血糖の急激な変化と筋芽細胞の機能低下との関連についての知見が深まることが期待される。