生薬分子ベルベリンおよびパルマチンは横紋筋肉腫細胞の増殖を抑制する

生薬分子ベルベリンおよびパルマチンは横紋筋肉腫細胞の増殖を抑制する

中村駿一1, 進士彩華1, 二橋佑磨2, 梅澤公二1,3, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学農学部.
  2. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

日本農芸化学会2018年度大会 (名古屋), 2018/03/17 (口演).

Abstract

ミカン科の落葉高木であるキハダ Phellodendron amurense の樹皮を乾燥させたオウバクは、消炎・解熱作用を有する生薬として用いられてきた。オウバクの主成分であるベルベリンは、ベンジルイソキノリンアルカロイドの一種であり、塩化ベルベリン製剤は整腸用の市販薬にも含有されている。ベルベリンは抗腫瘍作用を示すことが知られており、肝臓癌、結腸癌、胆管癌、舌癌細胞の増殖を抑制することが報告されている。しかし、肉腫である横紋筋肉腫 (rhabdomyosarcoma; RMS) に対するベルベリンの作用についての報告はない。RMS は骨格筋を発生母地とする腫瘍であり、小児で最も発生頻度の高い軟部悪性腫瘍として知られている。標準的な治療法は確立されておらず、高リスク患者の治療後生存率はいまだ 30% 前後に留まる。

本研究では、ベルベリンおよびその類縁体であるパルマチンが、RMS 細胞の増殖に及ぼす影響を検討した。ヒト患者の RMS から樹立された細胞株 ERMS1 (5 歳女児骨盤由来)、RD (頸部由来)、KYM1 (7 歳女児骨盤由来) を試験に用いた。接着培養したこれらの細胞に、1, 3, 10 uM のベルベリンもしくはパルマチンを投与し、24 時間ごとに細胞数を計測した。48-96 時間後には、いずれの RMS 細胞でもベルベリンによる濃度依存的な細胞増殖の抑制が認められた。qPCR により遺伝子発現を定量した結果、10 uM のベルベリンを投与した RD と KYM1 では細胞分裂マーカー Ki67 の発現が減少し、ERMS1 では細胞周期阻害因子である p57 の発現が増加することを認めた。一方、パルマチンによる RMS 細胞の増殖抑制効果は、ベルベリンと比較して弱かった。特に、パルマチンは ERMS1 の増殖を全く抑制しなかった。

生体内における腫瘍の増殖を模すために、RMS 細胞をハンギングドロップ法で培養し、肉腫塊の形成を試みた。培養条件を検討した結果、ハンギングドロップ後に浮遊培養を続けることで、RD 細胞塊を持続的に成長させることに成功した。浮遊培養下で 10 uM のベルベリンを投与すると、4 日目以降に RD 細胞塊の成長が有意に阻害された。これらの観察から、ベルベリンは横紋筋肉腫の三次元的な増殖を抑制し得ることが示唆された。また、接着培養での結果とは異なり、パルマチンもベルベリンと同程度に浮遊 RD 細胞塊の成長を阻害した。

以上の結果から、植物性生薬のアルカロイド成分であるベルベリンおよびパルマチンは、抗 RMS 作用を有する安全・安価な分子として、RMS の治療薬として有用である可能性が示された。

Keywords: rhabdomyosarcoma, berberine, palmatine.