ニワトリ筋芽細胞における Toll-like receptor 遺伝子群の発現

ニワトリ筋芽細胞における Toll-like receptor 遺伝子群の発現

二橋佑磨1, 小野珠乙1,2, 鏡味裕2, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学農学部.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

北信越畜産学会第66回大会 (伊那), 2017/09/08 (口演).

Abstract

Toll 様受容体 (Toll-like receptor; TLR) は、ウイルスや細菌、あるいは自己に由来する様々な分子を認識し、細胞内にシグナルを伝達することで免疫反応を誘導する。TLR ファミリーに属する遺伝子は、ヒトでは10種類 (TLR1-10)、マウスでは12種類 (TLR1-9, 11-13) が同定されている。ニワトリでは10種類 (TLR1A, 1B, 2A, 2B, 3-5, 7, 15, 21) の TLR が報告されているが、哺乳類とは遺伝子群の構成が大きく異なる。例えば、微生物由来の DNA をリガンドとする TLR9 はニワトリには存在しない。代わりにニワトリは、哺乳類に存在しない TLR21 で DNA を受容する。ニワトリ TLR 遺伝子群の働きを理解することは、ニワトリの飼育や、鶏肉・鶏卵の生産に重要である。

食肉となる骨格筋組織は、多数の筋線維から構成される。筋線維は、筋芽細胞が分裂を繰り返して増殖した後に筋細胞へと分化し、互いに融合することで形成される。TLR 遺伝子群は、筋細胞でも発現していることが知られている。マウス筋細胞は炎症性の刺激に対し、TLR を介してサイトカインを放出することが報告されている。しかし、ニワトリ筋芽細胞における TLR 遺伝子群の発現に関する報告はない。

本研究では、肉用鶏 UK チャンキー (UK Chunky; UKC)、卵肉兼用鶏横斑プリマスロック (Barred Plymouth Rock; BPR)、および卵用鶏白色レグホン (White Leghorn; WL) の10日胚の後脚骨格筋から採取した筋芽細胞を用い、TLR 遺伝子群の発現を調べた。TLR1A を除く全ての TLR 遺伝子は、いずれの筋芽細胞でも発現していた。興味深いことに、TLR1A は WL の筋芽細胞でのみ発現が認められた。UKC と WL の筋芽細胞における TLR 遺伝子群の発現量を qPCR で定量した結果、UKC の TLR1B の発現量は WL の 1/10 以下であった。また、UKC 筋芽細胞を分化誘導しても、TLR 遺伝子群の発現量に大きな変化はなかった。以上の結果から、肉用鶏の筋芽細胞では TLR1 リガンドに対する応答性が低いことが推測される。今後、各 TLR 特異的なリガンドを用いて、筋芽細胞のシグナル伝達の違いを解析していく。これにより、各品種の筋芽細胞における TLR 遺伝子群の発現パターンと、筋形成や炎症反応との関連について、新たな知見が得られると期待される。