骨格筋芽細胞の増殖・分化能は肉用鶏と卵用鶏で異なる

骨格筋芽細胞の増殖・分化能は肉用鶏と卵用鶏で異なる

二橋佑磨1, 小野珠乙2, 鏡味裕2, 高谷智英1,2,3.

  1. 信州大学大学院総合理工学研究科.
  2. 信州大学農学部.
  3. 信州大学バイオメディカル研究所.

日本家禽学会2017年度秋季大会 (伊那), 2017/09/05 (口演).

Abstract

【目的】肉用鶏は急速に成長し、極めて発達した骨格筋を形成する。筋組織は筋芽細胞の増殖と分化によって形成される。骨格筋の形態は肉用鶏と卵用鶏で大きく異なるが、これらの系統間で筋芽細胞の遺伝子発現を比較した研究は極めて少ない。食肉の増産、食味の向上には骨格筋の発生・成長を担う筋芽細胞の性質の理解が不可欠である。そこで本研究では、肉用鶏と卵用鶏の筋芽細胞の増殖・分化能を細胞レベルで詳細に比較解析した。

【方法】肉用鶏 UK チャンキー (UKC) と卵用鶏白色レグホン (WL) の10日胚から採取した筋芽細胞を用いた。筋芽細胞は増殖培地で培養し、分化培地で筋分化を誘導した。EdU 染色と細胞数の計測により、各筋芽細胞の増殖能を評価した。また、増殖中および分化中の各筋芽細胞における遺伝子発現を定量的 PCR によって解析した。

【結果】細胞分裂の指標である EdU 陽性率は UKC 筋芽細胞で 49% で、WLの 35% を有意に上回った。また、培養48時間後の UKC 筋芽細胞数は WL の 1.7 倍に達した。増殖・分化を通じて、幹細胞性の転写因子 PAX3, MYF5 の発現量は UKC に比べて WL で著名に高かった。一方、筋分化転写因子 MYOD1, MYOG の発現量には大きな違いを認めなかった。骨格筋の最終分化マーカーであるミオシンの発現量は WL で高く、特に速筋型ミオシン重鎖 MYH1 の発現量は分化3日目で UKC の 3.5 倍であった。

【まとめ】本研究により、UKC 筋芽細胞は WL に比べ活発に増殖すること、また、UKC と WL で筋分化に関わる遺伝子の発現プロファイルが異なることが明らかとなった。今後、網羅的な発現解析により、UKC と WL の筋芽細胞の特性を決定する遺伝子群の同定を計画している。肉用鶏の筋形成に寄与する因子を明らかにすることは、品種改良、鶏肉の増産・品質改善を通じて、高付加価値のユニークな地鶏の開発にもつながると期待される。