転写因子 GATA4 は骨格筋幹細胞の増殖・分化を制御する

転写因子 GATA4 は骨格筋幹細胞の増殖・分化を制御する

高谷智英.

信州大学バイオメディカル研究所代謝ゲノミクス部門.

第2回国際心血管薬物療法学会日本部会学術集会 (徳島), 2016/06/25 (ポスター).

Abstract

超高齢社会を迎え、心血管疾患に加え、骨格筋の機能低下を主徴とする運動器症候群(ロコモティブシンドローム)の増加が重大な問題となっている。慢性心不全患者は高頻度で骨格筋の委縮を併発する。骨格筋の筋量や酸素消費量は、心不全の予後と強い相関を示す独立した危険因子だが、心不全と筋委縮の分子病態学的な連関は不明である。

心筋で発現する転写因子 GATA4 は、心不全の増悪因子である。GATA4 は転写調節因子 p300 にアセチル化されて活性化し、心筋細胞の肥大反応を促進する。p300 の阻害剤であるクルクミンは、GATA4 のアセチル化を抑制することで、心不全の進行を抑止することが報告されている。

骨格筋は細胞膜と基底膜の間に衛星細胞と呼ばれる幹細胞を持ち、強靭な再生能力を示す。筋組織が障害されると、衛星細胞が活性化して筋芽細胞(前駆細胞)となり、増殖・筋分化・細胞融合を経て、多核の筋管を形成して筋組織を再生する。我々は最近、GATA4 が筋芽細胞の増殖を促進し、筋分化を抑制することを見出した。GATA4 は筋芽細胞でのみ一過性に発現し、未分化な衛星細胞や分化した筋管では発現しない。骨格筋特異的な GATA4 欠損マウスでは衛星細胞が減少して筋再生が悪化する。これらの結果から、骨格筋の恒常性維持には適切な GATA4 の発現が必須であることが明らかになった。

GATA4 を過剰発現する筋芽細胞では筋分化が著名に阻害される。しかしクルクミンを投与すると、GATA4 が不活性化され、筋分化の抑制が解除される。心血管疾患では多様な血中因子が増減し、心筋細胞における GATA4 の発現や活性を亢進して心肥大を促進する。このとき、骨格筋幹細胞でも GATA4 が異常に誘導されれば、筋分化が阻害されて筋委縮につながることも推測される。我々は現在、GATA4 が心不全と筋委縮を連関させているのではないかという仮説の下、心臓と骨格筋の病態連関の解明に取り組んでいる。